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僕は囚われてしまった。
金木犀の奏でる、秋愛の音色に。
古い建物の裏の道で、一人溜め息を吐く。
曇天に馴染むように、しんと消えた。
────幼い頃は、
「溜め息を吐くと幸せが逃げるよ」
と、ことある事に言っていたお母さんだが、今日、自ら死ぬことを選んだと、父から連絡があった。
苦い溜め息を吐いたのは、もう会えないからではない。
今日を、生きることに疲れたからだ。
何も考えずに、布団に潜り込み、寝たい。
誰が死んだとか生きているとか関係なく、
何よりもまず、疲れきった瞳を閉じたい。
目を開けているだけで入ってくる情報に感化され、感情に左右されるのが辛い。
今日もまた、愛していた人間を嫌いになってしまった、と。
揺らぐ過去に、蒼い波がたつ。
緑色の未来に、愛という船に乗って。
無色透明な僕は、夏に、
「宿題終わったの!?」
と、耳にタコが出来るぐらい聞かされる。
春、
気付かずに成長した僕をみて、泣きながら安堵の笑みを浮かべる。
そ、れ、でも、
共に、愛し、愛されていた者の棺に浮かぶ表情が、
麗しい時、
人は、何故、躙るように咲うのか、教えてほしい。
『
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