行け! エクセレントマン‼︎

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行け! エクセレントマン‼︎

「あ、エクセレントマンよ!」 「怪獣が現れたのか?」 「いや、宇宙人の襲来だ!」 高層ビルに並び立つようにエクセレントマンが巨立している。 しかし、その敵らしき者の姿が見えない。 バツが悪いエクセレントマンは、とりあえず上空へ飛び去った。 「きっと、空の彼方に敵がいるのよ!」 「がんばれ、エクセレントマン!」 と、人々が応援してくれるのはいいが、敵なんかどこにもいない。 彼はあと2分30秒、つまり、変身が自然に解けるまで、どこかで時間を潰さなくてはいけない。 地上の人々に見つからないように上空を旋回するのはいいが、航空機などにぶつからないようにしないといけないので、それも疲れる。 身を隠す山かげに行き、そこでじっと身を潜めるか、海底に潜水するか。 いずれにしろ、難儀なことに変わりはない。 だいいち、変身が解けて人間体に戻った時が大変だ。 どうにも困ったことになったのは3日前からだ。 それまでは自分の意志で、地球防衛隊員・モロオカ・ゲンの姿からエクセレントマンに変身していたのが、自分の意志とは反して勝手に変身するようになってしまった。 最初に勝手に変身してしまったのは、その朝礼の最中だった。 この日は、日本国の防衛大臣が視察に来て、挨拶をした。 この挨拶の最中に異変がおこった。 ムラムラした衝動は、防衛大臣が女性で、比較的丈の短いスカートを着用していたからだと初めは思ったが、そうではない、 これは変身の前触れだと瞬時に判断。 急いで外へ出て間一髪で巨大化した。 屋内で巨大化したら大惨事になるところだったが、屋外でなったとて、それはさほど変わらない。 エクセレントマンが現れたイコール怪獣か宇宙人が現れたことになるのだ。 しかも、地球防衛隊の基地のすぐ間近でだ。 エクセレントマンの姿を認めた防衛隊員たちはすぐさま臨戦体制をとった。 当のエクセレントマンも事情が飲み込めない。 なぜ自分の意志とは反して勝手に変身したのか。 敵の襲来に意志より先に体が反応したのかもしれない。 彼は身構えたまま、四方に敵の姿を確認しようとした。 どこにもいそうもない。 防衛隊としても目視で、レーダーで、赤外線であらゆる手段で探した。 見つからない。 そのうち、胸のタイマーが鳴り出した。 エクセレントマンは地球上では3分半しか活動ができないのだ。 エクセレントマンは仕方がないので東方の上空に何かを発見した風を装い、上空に去っていった。 誰もいそうもない山陰で変身を解くと、モロオカ・ゲンは電車とバスを乗り継ぎ基地に帰ってきた。 騒動から2時間は経っていたが、基地内はいまだにおおわらわだった。 なんせ、エクセレントマンが現れたのに、怪獣や宇宙人が現れない、というのはこれまで実例がない。 その意義と今後の対処について解析と会議が紛糾していた。 その最中に、騒動中姿を消したモロオカ・ゲンが帰ってきた。 モロオカ・ゲンは諸氏にキツく責められ散々な目に遭った。 2回目の勝手な変身は、基地での夜勤でのこと。 夜勤の日は2人1組で交代で睡眠を取りながら、レーダーや諸機器をチェックする。 と言ってもそんなにずっと睨めっこをするのも退屈だし、第一、目を皿のようにして見張ってなくても、異変があれば警告音で知らせてくれる。 その警告音を寝過ごさずに聞き漏らさないようにすればいいだけのことなのだ。 地球防衛隊の夜勤の過ごし方については、以下の通り。 ・手をつけずにいた始末書を書く。 ・基地内と出入りの業者を含めた独身限定懇親会兼婚活イベントの案内チラシを作る。 ・防衛隊が発行するフリーペーパー『ぼうえい』のへの寄稿文を書く ・スマホゲームをする。 書き仕事は睡魔を忍ばせやすいが、スマホゲームは興奮して熱中している分、寝ることはない。 ……というのは建前で、要は時間を潰しやすいからだ。 その日もモロオカ・ゲンはスマホゲームに集中していた。 突如、胸の動悸に襲われた。 それはスマホゲームのガチャでいいアイテムを引き当てたから。 ……と思ったが、それが変身の前触れだと気づくのに数秒もかからなかった。 モロオカ・ゲンは急いで外に向かうが時間がない。 寒さが迫ってきた11月の夜空に向けて、モロオカ・ゲンは窓から飛び降りた。 と同時にエクセレントマンに変身した。 基地でも警告音が鳴った。 その日同じく夜勤のアラシヤマ・サンタ隊員は、シルクのパジャマに身を纏い仮眠中であったが、警告音に驚いて跳ね起きた。 レーダーにはエクセレントマンの反応。 基地から南西の方向に飛んでいる。 アラシヤマ隊員は無骨な顔に似合わず冷静な判断力に長けた男だったので、 「これは、この基地に起きるであろう危機から、エクセレントマンが身を挺して遠ざけようとしてくれているのだ」 と判断し、急いで応援を呼び、自身はイーグル2号でエクセレントマンの援護に向かった。 驚いたのはエクセレントマン。 目立たないようにどこかの山かげまで跳び、人間体に戻ろうと考えていたのに、気づかれ、追いかけられている。 いや、ひょっとしたら、飛行タイプの怪獣か、宇宙生物の円盤が本当に迫っているのかもしれない。 エクセレントマンは、その場に着地し、周囲を見回す。 アラシヤマ隊員の操縦するイーグル2号もその場を旋回する。 そのうちに、誰が呼んだかその土地の警察やら消防団が集まり、近隣住人の避難が始まった。 しかし、その頃には3分経とうとしているから、エクセレントマンは 「怪獣や宇宙人といった危機は迫っていない」 と判断。 また北西方向に飛び立った。 イーグル2号もエクセレントマンを追いかける。 エクセレントマンは自身最速の速さで飛び、イーグル2号をまくしかない。 イーグル2号をまいたと同時に変身が解けた。 人間体であるモロオカ・ゲンは真夜中の山中に放り出された格好となった。 市街地まで歩き、タクシーを拾い、基地に着いて、会計時に領収書をもらう頃には、夜も明けた。 もちろん基地はおおわらわで、この騒動に姿をくらましたモロオカ・ゲンはまたもや関係各所から大叱責を食らうこととなった。 そして、今回の3回目である。 エクセレントマンは、三たびのこの勝手な変身について、 「勝手にて変身して、どうもすみません」 と謝ることができない。 人間体のモロオカ・ゲンが代弁すればいいのだろうが、それだと「何の筋合いでモロオカ・ゲン隊員が弁明をするのだ」と違う疑惑が持ち上がる。 モロオカ・ゲン=エクセレントマンであることは知られてはならないのだ。 かといって、このまま勝手な変身が続いていいものか。 エクセレントマンの変身のたびに、みなが臨戦体制に入る。 しかし、怪獣や宇宙人といった危機が近づいているわけではない。 これではまるで「狼が来た」と嘘をついて、しまいには愛想を尽かされた狼少年ではないか。 これでは、エクセレントマンの沽券に関わる。 この3回目の変身時には、ただ上空に逃げるわけにはいかず、エクセレントマンは、誰もいなさそうな山肌に彼の得意技であるブリリアント光線を打ち込む。 そして、さも「よし、宇宙人を倒したぞ」とばかりに満足気にうなづき、上空へ去っていった。 驚いたのはその場にいた地球人たちだ。 エクセレントマンが、何もない山肌に光線をぶち込んでその場を去っていったのだ。 「これは何かわけがあるのに違いない」 と、すぐさまその山肌の調査に向かった。 エクセレントマンが光線を打ち込んだ理由について、 ・地底怪獣が今にも躍動しそうな予兆があったのか。 ・地球征服を目論む宇宙人たちの秘密基地を先制して攻撃したのか。 いずれかの理由があったと考えられたからだ。 調査は地球防衛隊を中心にして ・生物学の専門家 ・地質の専門家 ・宇宙の専門家 ・「亡霊の類いも考えられる」と霊媒師 などが参加して進められた。 成果は、民間が設置したソーラーパネルが数枚破壊されていただけだった。 地底生物の血痕も、宇宙人の基地のネジ一本さえ見つからなかった。 その翌日の朝刊には、 「エクセレントマン、乱心か⁉︎」 という見出しが踊った。 それもそうだ。 これまで2回、特に理由もなく出現し、3回目にはとうとう光線技で山を理由もなく破壊したからだ。 「エクセレントマンは本当に我々の味方か?」 という議論がワイドショーから、雑誌から、ネットから、SNSから、井戸端会議に至るまで、賑わせた。 心中穏やかじゃないのがモロオカ・ゲンだ。 自身も原因不明の突如の変身に悩まされているだけではなく、それのせいで、世間が穏やかではなくなってきた。 かと言って、前述した通り、 「エクセレントマンが突如、変身の制御が効かなくなってしまいまして」 と自分で説明するわけにはいかない。 そこでモロオカ・ゲンは、 「この騒動の陰で、日本政府が無茶な法案を通そうとしている」 と匿名でSNSに書き込むしか、手はない。 普段は冷静沈着な彼らしからぬ愚策である。 間もなく、その匿名の正体は地球防衛隊隊員のモロオカ・ゲンであるとバレた。 上司にこっぴどく叱られた。 「国家公務員が政府の悪口とは何事であるか」と。 そのうち、世論は「エクセレントマン不要論」が大勢を占めるようになっていった。 それもそのはず、このところ、怪獣も宇宙生物も姿を表していないのだから。 「もう、地球は平和だ」 と油断をした頃に、危機はやってくる。 長野県は浅間山山麓に地下微動が数回起こったかと思うと、地底怪獣が地面を突き破るかのように出現した。 体長はざっと見積もっても30メートル。 2本の角と、鋭い牙と剛健な腕と真太い尻尾が、このあと降り注ぐであろう災害を想像させるに容易だった。 一方、千葉県は九十九里浜沖合の海中から突如現れた円盤が10基余り。 地球のどの飛行体にも例を見ないことは言うまでもない。 太平洋の海底に潜んでいた宇宙人たちが、満を辞して地球攻撃を開始しようと言うのだろう。 どのような兵器を搭載し、また、それでどのような被害が想定されるのか。 予想だにできない。 北西から地底怪獣が、南東から円盤群がゆっくりと東京に向かいだした。 東京に未曾有の危機が迫っている。 「今こそ、エクセレントマン」 と、エクセレントマン待望論が渇望された。 「人間というのは勝手なものだ」 とエクセレントマンことモロオカ・ゲンは呆れることはなく、 「今こそ、汚名返上の時」 と、張り切った。 エクセレントスティックを天高く掲げる。 変身しない。 気合いが足りなかったのか。 「デュアッ!」 と、今まで出したことのない声を出す。 今一度、天にそそり立つようにエクセレントスティックを掲げる。 うんともすんとも言わない。 モロオカ・ゲンは焦った。 今まで3回、自分の意志とは関係なく変身してきて、今度は自分の意志では変身出来なくなったのだ。 「モロオカ、何してるんだ! 出動だぞ!」 アラシヤマ隊員に促され、モロオカ・ゲンはやむを得ずイーグル2号で出動する。 北東から地底怪獣が、南西から円盤群が、同時に迫っている。 地球防衛隊も戦力を二分せざるをえない。 モロオカ・ゲンが操縦桿を握り、アラシヤマがミサイル等を操るイーグル2号は、地底怪獣を迎え撃つべく、北東に向かった。 地底怪獣は浅間山から出現した後、小諸市、御代田町を破壊し、軽井沢町に向かっていた。 「ちくしょう、軽井沢には入れさせんぞ!」 アラシヤマの鼻息は荒い。 「軽井沢に思い入れがあるのですか?」 「うちの別荘がある」 「べ、別荘⁉︎」 「あれ、知らなかったのか、俺の実家は鉄鋼業大手のアラシヤマ財閥だ」 その顔で、という声をモロオカは飲み込んだ。 今はアラシヤマ隊員の実家に妬いている場合ではない。 地底怪獣による被害を、最小限に食い止めなければならない。 軽井沢町が迫ってきた。 遠くにだが、地底怪獣が目視出来るようになった。 その背後が赤く染まっているのは、建物が炎上しているのだろう。 地底怪獣が徐々に大きく見えるようになってきた。 なるほど、筋骨隆々な四肢、それを覆う鋼のような鱗だけで十分脅威に感じるのだが、その角、その牙は近づくことすらためらわれる。 アラシヤマ隊員がミサイルを発射した。 地底怪獣に命中したが、その鱗はびくともしなかった。 地底怪獣はイーグル2号の存在に気付き、その口から光線を出してきた。 「おっと」 すんでのところで、モロオカが操縦桿を切って、避ける。 「やろう、光線も出しやがるのか」 これはとてもじゃないが、イーグル2号が太刀打ちできる相手ではない。 せめて、モロオカ・ゲンがエクセレントマンに変身出来れば。 「そうだ」 モロオカ・ゲンは妙案を思いついた。 先程、自分の意志でエクセレントマンに変身出来なかったが、自分に危機が迫れば変身出来るかもしれない。 そのためには、このイーグル2号ごと地底怪獣に突っ込むしかない。 アラシヤマ隊員を、どう、説き伏せるか。 「アラシヤマ隊員、こうなったら、イーグル2号ごと怪獣に突っ込むしかないです」 「それで倒せるのか? ミサイルも効かなかったんだぞ」 「しかし、このまま怪獣を素通りさせるわけにはいけません」 「俺は死にたくない」 「私も死にたくないです」 「俺は来年の3月で防衛隊を除隊するのだ」 「そ、そうなんですか?」 「親父の跡を継ぐために、アラシヤマ鉄鋼の専務になるのだ」 「初めて聞きました」 「まだ、隊長にも言ってない。このままあと半年、穏便にすごせれば、俺の将来は鉄鋼業の世界的大手の社長の椅子の座に王手がかかるのだ。ここで死んでは何にもならん」 「しかし、東京が破壊されれば、その社長の座も危うくのなるのですよ」 「しかし、怪獣や宇宙人に破壊された後の復興のおかげで、アラシヤマ鉄鋼はシェアを伸ばしている。本音を言うと、破壊された方が、うちとしては儲かるのだ」 「アラシヤマ隊員には、正義と言うものはないんですか?」 「今まさに、正義と利益の板挟みになっている。最初はアラシヤマ鉄鋼が地球防衛隊の後援企業だったコネで入隊し、親父の跡を継ぐまでの腰掛けとして、経歴に箔がつけばいいくらいにしか考えてなかったこの俺に、いっぱしの正義が芽生えるとはな」 「脱出装置もありますから、イーグル2号で突っ込んだところで、必ず死ぬわけではありません」 「この脱出装置だがな、アラシヤマ鉄鋼の関連企業が作っているのだが、安全性は99パーセントとうたっているが、実は70パーセントも無い」 「な……」 「だから、使いたくない」 「では、一旦着陸しますから、そこでアラシヤマ隊員は降りてください」 「馬鹿を言え、ビビって着陸させて降りたとなると、おれはいい笑い者ではないか」 「では、ゆっくり低空飛行しますから、その隙に脱出してください」 「だから、この脱出装置は安全ではないと」 「では、私と一緒に怪獣に突っ込みますか?」 「……低空でゆっくり飛行してくれ」 この説得は、怪獣の周囲を旋回しつつ、怪獣の繰り出す剛腕や尻尾や光線を避けながら行われている。 操縦桿を握っているのはモロオカ・ゲンなのだから、有無を言わさず怪獣に突っ込むことも出来たのだが、関係ないアラシヤマ隊員を巻き込みたくないという一心で、操縦と説得という、神経をすり減らす行為を同時進行させたのだった。 しかし、説得が終わってみれば、己のことしか考えないアラシヤマ隊員を巻き込んでもよかったのではないか、とも思っている。 モロオカ・ゲンが低空飛行に移った。 「死ぬなよ、モロオカ」 アラシヤマ隊員が脱出装置を作動させた。 アラシヤマ隊員は、その安全性70パーセントに上手く乗れたのか。 それとも、30パーセントの死神が微笑んだのか。 モロオカ・ゲンには確かめる術が無い。 モロオカ・ゲンはイーグル2号の高度を上げると、怪獣の口内に目標を定めた。 光線を避けつつ、怪獣に突っ込むのは骨が折れる作業だが、なんとかイーグル2号が怪獣の口内から延髄の当たりに、その鋭い先端で貫いた。 その頃にはモロオカ・ゲンの意識はない。 気付くと、モロオカ・ゲンはエクセレントマンの姿で異空間に横たわっていた。 「おお、エクセレントマンよ、死んでまうとは情けない」 声は枕元で聞こえる。 可動できる限り首を伸ばして見ると、銀色の全身に頭にそびえる2本の角。 紛れもなきエクセレントの父だ。 「エクセレントの父よ」 「変身せずに人間体で怪獣に突っ込むとは、向こう見ずにも程がある」 「聞いてくれ、エクセレントの父よ。これには訳がある」 「みなまで言うな、エクセレントマンよ。お前の言いたいことはわかっている」 「わかってくれるか、エクセレントの父よ」 「お前は飽きたのだろう、モロオカ・ゲンの体に」 「は?」 「だから、新しい地球人の体を手に入れるために、敢えてモロオカ・ゲンの体を手に入れた」 「違う、エクセレントの父よ」 「みなまで言うな、エクセレントマンよ。お前の本当に言いたいことはわかっている」 「わかってくれるか、エクセレントの父よ」 「お前は向こう見ずな自分を見せることで、自分のファンを増やそうと……」 「全然わかってくれないではないか、エクセレントの父よ」 「違うのか」 「違う。私は自分の意志とは関係なく変身したり、逆に出来なかったりした。今回は自分の意志で変身出来なくなったから、イーグル2号ごと怪獣に突っ込むしかなかった」 「なんだ、そんなことか。理由は簡単だ。お前とモロオカ・ゲンの体が合わなくなって来たのだ」 「そんなことがあるのか?」 「そもそも、地球人と我々エクセレントの民とは構造が違うのだ。その構造の違う地球人の体を借りていては、いろいろと齟齬が起こって当然なのだ」 「それは知らなかった」 「知らないでは済まさない。お前を地球に送る時に渡したマニュアルに書いておいたはずだが」 「あんな分厚いマニュアルなんて、隅々まで読むはずがない」 「その時は読まなくてもだ、いつも手元に置いておいて、もしもの時は『あれ、異常かと思ったら?』のページを読むのが、まず筋ではないか」 「マニュアルは鍋敷きにしてしまったから、開く気になれん」 「ちゃんとマニュアルは大事にしろとあれほど言っていただろう。だいたい、お前が掃除機を買い替えた時だって……」 「昔のお説教はいい。私はどうしたらいい」 「モロオカ・ゲンの体は使えない。だが、代わりに近くに活きのいい地球人の死体があった。……これだ!」 「……これは、アラシヤマ隊員。脱出に失敗したのだな」 「お前が敢えて脱出を失敗させたと、こちらは睨んでいる」 「そんな酷いこと、わざわざするか」 「どうだ、アラシヤマ隊員の体に宿り、新たなエクセレントマンとして、生きるか?」 「そうするしかあるまい。まだ円盤群がいるのだから」 「その前に怪獣にトドメを」 「やつはまだ生きているのか?」 「口を貫かれただけで、絶命していない。激痛にのたうち回るあまり、家や建物を破壊して、軽井沢町は大惨事だ」 「それはいけない。今すぐ変身を」 「待て。お前はまだ変身出来ない」 「なぜだ」 「エクセレントスティックの電池切れだ」 「なんだと。エクセレントスティックが作動しなかったのは、ただの電池切れだったと言うのか」 「これもお前がマニュアルをちゃんと読んでないから、こうなるのだ。だいたい、お前が電子レンジを買い替えた時だって……」 「昔のお説教はいい。早く替えの電池をくれないか」 「電池代はお前の給料から天引きしておく」 「金を取るのか」 「お前にタダで施す義理はない」 「エクセレントの父を名乗っていると言うのに」 「金銭ばかりは他人事だ」 エクセレントスティックの電池を替えたエクセレントマン、モロオカ・ゲンの体を捨て、アラシヤマ・サンタの体に乗り移った。 変身。 見事、怪獣を木っ端微塵に粉砕。 返す刀で南東の房総半島を横断せんとする円盤群にとって返す。 一機残らず撃墜。 世間は 「やっぱり、エクセレントマンはすげぇや!」 と好評に沸いたとのこと。 その後のエクセレントマンことアラシヤマ・サンタは、3月に地球防衛隊を除隊。 無事にアラシヤマ鋼鉄の専務に落ち着き、このまま社長にスライドして地位は安泰。 ……かと思いきや、エクセレントマン稼業は続けているので、「怪獣が現れた」となると、大事な取引や会議をすっぽかして変身。 怪獣退治に駆けつけるから組織のリーダーとして素養を疑われる始末。 それに、中身のエクセレントマンがマニュアルの隅々を読まないのと同様、大事な書類や契約書の重要案件の見落としが多いから、会社に不利な経営を続けてしまった。 アラシヤマ鋼鉄の経営はだいぶ傾いているらしい。 【糸冬】
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