《宏美が捨てたもの》

1/1
前へ
/12ページ
次へ

《宏美が捨てたもの》

 翌日、森川宏美は県外に向かう列車に乗っていた。  カレーパンの転売が源田にバレていた。それを理由に(こく)られた。  履歴書に住所や電話番号を書いてあるため、あの男が家に来てしまう可能性は高い。とりあえず他県に身を移し、ほとぼりが冷めるのを待つしかない。  源田の妻は離婚を考えているらしい。さらに多くのカレーパンを作らせるために冗談で腕を組んだところを写真に撮られたと聞いた。  下手をすれば宏美にも慰謝料という文言が降りかかってくる。冗談ではない。何故に転売して金を貯めたのか。その妻に払うための金ではないのだ。  だが、これは天がくれたチャンスだとも思う。  源田とも草野とも離れることができた。目標額には少し足りないが、合格点ぐらいには稼いだ。揉め事になる前に逃げられるなら、宏美には得しか残らない気もする。  起業して、いい男を捕まえ、女としても実業家としても成功したい。元夫に(したた)か後悔させるために、過去は過去として(ひと)(ひし)ぎ、換気のために開いている列車窓から投げ捨てよう。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加