《源田店長の恋》

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 一番人気のカレーパンは、日に五十個しか作らないとPOPに大きく掲げており、この稀少価値を付加することで、確実にそれを売り(さば)いている。  五十個売り切ったタイミングで「カレーパン()()()」の()()()を立て、そして二時間ほど経ってから、そののぼりを下げ、追加で五十個店に並べる。これを日に二度か三度不規則にやり、カレーパンの価値を高める作戦だ。このやり方が奏功し、店に出した途端に売り切れるようになった。事実、源田の店のカレーパンは味がよく、多少値段を高めに設定しているため、月の売上も並のパン屋の比ではない。だが、抱かせてもくれない妻が浪費するせいで、一向に小遣いは増えない。だからこそ、若い宏美の甘いエキスを欲しがっているのかも知れない。  源田は一日中パンをこねて、焼いて……の繰り返しだ。店にはあまり顔を出さないが、毎夜売上を眺めてほくそ笑んでいる。今日も、昨日も、一昨日もバカ売れしているカレーパン。これが宏美を口説く口実になると思えば、うれしくって仕方がない。  もう切り出しても良い頃合いだろう。源田は彼女を落とすために多くの時間を費やしてきた。もはや断ることはできまい。あの子のいやらしい身体を手に入れる日は近いのだ。
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