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朝のお迎え
「玲、早くしなさい。清君がお迎えに来たわよ?貴方たち珍しいわね。一緒に行くなんて初めてじゃない?」
母さんのそんな声に、僕は洗面所で慌てて身支度を急いだ。なんだか顔が赤い気がする。そんな顔母さんに見られたら、もっと色々言われる気がして、少しうつむ気加減で玄関へ急いだ。
いつもは台所から声をかけるだけなのに、なぜか母さんは僕を見送ってくれようとしているみたいだった。僕がぶっきらぼうに何と聞くと、清君が来てるから挨拶しようと思っただけだと、母さんは面白そうな顔で僕を見た。
行ってきますと玄関を開けると、門扉のところにキヨくんが横を向いて待っていた。
「キヨくんおはよう。文化祭がんばってね。いってらっしゃい。」
母さんがあまり余計なことを言わなくて、僕は正直ほっとした。色々言われたら、きっといたたまれないはずだ。キヨくんは僕の顔を見ると、にっこり笑って言った。
「おはよう。お前寝坊したのか?」
そう言って歩き始めたキヨくんの後を急ぎ足で追いかけて言い訳した。
「寝坊してないけどちょっと身支度に時間かかっただけ。僕はそんなに要領が良い方じゃないから。」
僕は焦りからか言わなくて良いことを言うと、キヨ君が僕の方をチラッと見て言った。
「玲は要領が悪いんじゃなくて、丁寧なだけだよ。要領が悪いやつはそもそも松陰高校なんて合格しないから。」
キヨくんから松陰高校の合格と言う話が出て、僕はなんだか小学生の時の約束を持ち出されるのが怖くて、話を変えてしまった。
「…今日も沢山お客さん来るといいね。売り上げはどうするつもり?」
キヨくんはちょっと僕の様子を伺っていたみたいだけど、売り上げで打ち上げするだけだ、男しかいないけどと笑うキヨくんのそんな言葉に、僕は不意に中学時代の記憶を思い出した。
そしてなぜかその時のことを言わなくてはいけないと言う強迫観念に駆られたのか、僕の口からすらすらと流れ出た。
「キヨくん中学の頃に女子と付き合ってたでしょ?僕も知ってる位、人気の女子。…確か小沢さん?背がスラリとしたした女の子。キヨくんと小沢さんて理想のカップルって言われてたよね。」
キヨくんはすごく嫌な顔をして眼鏡を押し上げると、僕を見つめて言った。
「俺、小沢と付き合ってないよ。あれはわざと付き合ってるって見える様にそうしていただけだから。」
僕はキヨくんの言った事の意味が分からなくてぼんやりしてしまった。どういうことなんだろう。付き合って見える様にしたって事は、実際は付き合ってなかったって事?
「ほら遅れるからもうちょっと急いで行こう。これじゃいつも通りになっちゃうからな。」
そう言って僕に背中を見せて、キヨくんは急ぎ足で駅に向かった。僕は中学の頃、理想のカップルだと騒がれていたキヨくんと小沢さんの姿を何故かはっきり思い浮かべていた。でも、キヨくんがなぜ今更そんな裏事情をカミングアウトしたのかもわからず、スッキリとしないままキヨくんのスラリとしたブレザー姿を追いかけながら駅に急いだ。
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