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バックヤードで
何だかキヨくんが僕のことを怒っている気がしたけれど、僕はやっと二人分のおやつタイムイベントが終わってホッとしたせいで、そこまでキヨくんの事を気にしていられなかった。
僕のイベントが終わると今度は三浦君自らがポッキーイベントをやると言い出した。流石に三浦君は学校一番の美女の評判なので、両端から一本のポッキーを食べていくイベントに長蛇の列が並んだ。
「箕輪君、ポッキーイベント一本いくらなの?」
僕がバックヤードで甘い口の中を箕輪君が渡してくれた緑茶で流しながら、仕切りの隙間から三浦君のイベントをこっそり覗きながら尋ねると、箕輪君は笑いを含んだ声で答えた。
「何だ、橘もやりたいのか?三浦ならうまくかわせるだろうけど、橘じゃ結局チュウされちゃうだろうからやめとけば?」
僕は眉を顰めて言った。
「やらないよ!やるわけないじゃん。ただ幾らなのかなって。え?一本600円?一箱全部やったら凄い金額じゃないの?さすがだよね、三浦君て。」
僕は目を丸くした。するとそこにキヨくんが暗幕をかき分けて休憩をしに戻ってきた。入れ替わる様に、箕輪君はじゃあなと言いながらキッチンブースへと行ってしまった。
「キヨくん…。キヨくんも休憩?」
僕の質問に、キヨくんは答えてくれなかった。何か言いたそうに僕を見ている。僕はキヨくんの眼鏡の奥の視線に負けて、そっぽを向くと呟いた。
「…キヨくん、なにか怒ってる?僕、バナナチョコイベント上手く出来なかったかな?」
するとキヨくんは僕の隣の椅子にドカリと座ると、僕の手を持ち上げた。
「やっぱりウェットティッシュじゃベタベタが落ちないな。イベントは上手く出来たと思うよ。どっちかと言うと、上手くいき過ぎた感じだ。二人目の二年が慌てて教室を飛び出すくらいには。」
僕は首を傾げてキヨくんに顔を向けて尋ねた。
「あれってどうしたんだろう。あの子、鈴木君て言うんだけど、最初凄くノリノリで、あーんとか言ってたんだよ?でも僕がひと口食べたら、急に黙り込んじゃって。じっと見つめられて、ちょっと困っちゃった。ふふ。」
キヨくんは僕の顔を見下ろしてふぅっとため息をついて言った。
「さあな、俺にもどうしてかは分かんないね。玲の顔が怖かったんじゃない?」
僕はキヨくんが僕を揶揄っているのは分かってたけれど、でもそんな時間がくすぐったくて、それから僕たちは呼ばれるまでコソコソとどうでもいい話をポツポツ話していた。それはまるで昔に帰った様な気楽さで、僕は本当に楽しかった。
でもその話してる間中、キヨくんがずっと僕の手を握っていたのに気づいていた。でもその事をキヨくんも意識してなかったみたいだから、きっと最初にベタベタしてるって調べた時の流れで、手を離すのを忘れてしまったんだと思うことにしたんだ。
だって、僕はキヨくんと手を繋いでいたかったから。変かな、僕。
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