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キヨくんの友達
自販機で買ったジュースとたこ焼きを飲食スペースで食べ始めて、僕はハッと気がついた。僕は財布から400円出すと、キヨくんの側に置いた。
「ごめんね、気づかなくて。でも美味しいね、これ。文化祭ってシチュエーションで食べるからかな。ふふ。」
お金を受け取ろうとしないキヨくんに、だからと言って理由なく奢られるのも変だと言うと、しぶしぶお金を受け取ったキヨくんは、僕が美味しいと言いながら食べる姿を見て口元を緩めた。
僕は僕で、目の前のキヨくんのたこ焼きがあっという間に消えていくのを、驚きを持って見ていた。僕は猫舌なので、ゆっくりしか食べられない。僕は急いで食べていたけれど、キヨくんが優しい目で僕を見ている気がして、何だかドキドキしてきた。
さっきまで不機嫌だったのに急に幼馴染感出されると、どうして良いか分からなくなる。そんな僕に気を遣ったのか、キヨくんはもう少し何か買ってくるから待っててと席を立った。チョコバナナの列に並んだキヨくんを見ていると、こっちを向いて手を上げた。
僕もそっと手を上げると、自然口元がニマニマしてしまう頬を指で押さえながら、たこ焼きを食べ続けた。ふと、誰かが側に立った気がして顔を上げると、そこに他校生が二人立っていた。
「えー、めっちゃ可愛いじゃん。清純系?あれ、でもここって男子校だよな。平野もメイド喫茶って言ってなかったっけ。何か聞いてる?船木。」
僕は心臓がドクンと大きく跳ねた。この人たちもしかして同じ中学校だった?多分、キヨくんといつも一緒にいた友達だ。僕には全然気付いてないみたいだけど…。
僕は自分がこんな格好をしているのもそうだけど、キヨくんと一緒にいることがバレたら何かダメな気がして慌てて椅子から立ち上がった。
「あ、ねぇ、この高校の人でしょ?凄い再現率だよね、君。男の娘ってやつ?俺たち平野清って奴の中学の時の友達なんだけど、あいつ何処で店やってるか知らないかな?
…でも君、見れば見るほど、女の子にしか見えないけど。…触っちゃおうかな。」
そう言って船木君が僕の胸をぎゅっと触った。朝の真田君に掴まれたところがアザになっていたのか、僕は痛さで胸を抑えると、顔を顰めて呻いた。
周囲のお客さんたちが注目してザワザワしているのに慌てた彼らが、ふざけすぎたと僕に謝ってくれたけど、胸は痛いし、恥ずかしいし、注目されてるしで、顔を上げることが出来なかった。
そこに丁度キヨくんが戻ってきて僕たちの様子を見ると、船木君達に凄い剣幕で何があったのかと問い詰めた。僕はその場に居るのが居た堪れなくて、船木くんたちに強い口調で詰問しているキヨくんに先に戻ってると言うと、後ろも見ずに教室に向かって急いだ。
僕はどうして逃げてしまったのか自分でも分からなかった。文化祭なんだからメイド服を着てるのがそう恥ずかしい訳じゃない。正直、キヨくんが船木くんたちに怒ってくれたのは嬉しかった。
でもそれより僕は、中学時代の僕から逃げてしまいたくなったのかも知れなかった。
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