清side逃げ出した玲

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清side逃げ出した玲

「悪かったって。ちょっとおふざけが過ぎたんだよ。でも、別に良く無い?だってどんだけ可愛いメイドだって、所詮男だろ?」 そう船木が言い訳すると、蒲田が眉を顰めた。 「でも、何か痛がってただろ?男だからって、あんなに可愛らしい子にいきなり胸掴むとか、お前怖いわ。」 俺は紙コップにチョコバナナの入ったビニール袋を下げた手をぎゅっと握り締めると、二人を睨んで言った。 「…何、そんな事した訳?」 二人は俺の剣幕に顔色を変えて謝ったけれど、さっきまでニコニコとあの懐かしい笑顔で俺の前に居た玲は逃げ出してしまった。それがコイツらのせいだと思うと、腹が立ってしょうがなかった。 二人はもう一度謝りたいと言ったけれど、多分玲は中学時代の俺の友達には会いたく無いだろうと思って、怖がるから店に来るなとその場で別れた。 急いで教室に戻ると、バックヤードで玲が胸の辺りを気にしているのが見えた。俺はチョコバナナを差し出すと、自分でも強張っているのが分かる声で言った。 「大丈夫か?まだ痛い?」 玲は俺をそっと見上げると、大丈夫だと小さな声で言って俺からチョコバナナをひとつ受け取った。またいつもの様に俺から遠ざかろうとする玲に戻ってしまったとやるせない気持ちになりながら、俺は隣に並んでテーブルに寄りかかりながら言った。 「あいつら、この店には来ないように言ったから。多分玲だって気付いてないし。怖がるから来るなって…。」 すると玲は俺を見上げてにっこりと作られた笑顔を向けて言った。 「でも、委員長に会いに来たんじゃないの?出禁にしなくても大丈夫なのに。どうせ僕の事なんて覚えてないから大丈夫だよ。せっかくだから来てもらったら?」 俺は作り笑いで心にも無いことを言い募る玲を力いっぱい揺さぶって言いたかった。どうして、さっきまでの笑顔に戻ってくれないんだ、キヨくんて呼んでくれないんだって。 あんなに怖がっていたのに、平気な顔をする玲の取り繕った顔を引き剥がして、泣かせたかった。怖かったって俺の腕の中で泣かせて慰めてやりたかった。俺は玲が自分から離れていこうとする度に、自分の何かが壊れていく気がするんだ。 今だって、俺の視線から逃れようとする玲を追い詰めてしまいたい。俺のドロドロとした言いようのない感情は行き場をなくして、また身体の奥深くに沈んで行った。 バックヤードにドヤドヤと休憩の終わったメンバーがやって来る気配がして、俺たちは慌ててチョコバナナを口に放り込んだ。甘いはずのチョコバナナは、取り戻せなかった玲との関係を示すかのように少し苦い気がした。
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