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謝罪
午後も相変わらずの忙しさで、僕は三浦君ほどじゃ無いにしろ、写真も頼まれて、張り付いた笑顔でカメラに微笑んだ。さっきの船木君の様な、強引なお客さんは居なくてホッとした。たこ焼きのお店で並んでいた時の、賑やかだけど、優しい二年生たちが約束通り来てくれたのも何だか嬉しかった。
彼らはなぜか僕の名前を知っていて不思議に思ったけれど、きっと店の誰かに聞いたんだろうと、その時は気にも留めなかった。客の波が過ぎて少し楽になったその時、さっきの船木君ともう一人、蒲田君だっただろうか、中学でも目立っていた二人が入り口から入って来た。
僕は注文を受けたフリをして、思わずバックヤードに逃げるように入ってしまった。彼らから逃げなくちゃいけない理由は無いけれど、顔を合わせるのは気まずかった。すると三浦君が僕の肩を叩いて言った。
「なんか、たぶん橘の事だと思うんだけど、謝りたいって言ってる客が居るんだけど。何かあった?」
僕は困った事になったと視線を彷徨わせた。僕は思わず三浦君に尋ねた。
「あ、あの、委員長どこ?」
三浦君はバックヤードから店の中を眺めて言った。
「今、居ないけど。…もしかして会いたくない感じ?オッケー、じゃあ俺適当に相手しておくから、橘はしばらく中入って休憩しときな。」
そう言って店に戻る、三浦君のリボン結びの揺れる頼れる背中を眺めながら、僕は側の椅子に座ってため息をついた。僕はこうやって自分で解決しなきゃいけない事から逃げてばかり居る。自己嫌悪に陥っていると、目の前にオレンジジュースが差し出された。
「ほら、疲れた時には酸っぱいものだろ?」
そう言って箕輪君はウインクした。僕はぼんやり箕輪君を見上げて言った。
「箕輪君の彼女って、きっと幸せだよね。」
箕輪君は急に照れると、軽口を叩いて自分の仕事に戻って行ったけど、こうやって他人に気遣い出来る箕輪君は凄いと思った。僕は自分の事さえ何とか出来ないのに…。
僕はジュースを飲み干すと、バックヤードから店に出て行った。丁度その時、船木君と蒲田君がお会計を済ませているところだった。側にはキヨくんも居て何か話していた。僕は三人の所へ近づくと後ろから話しかけた。
「あの、謝りに来てくれたって聞きました。わざわざありがとうございました。」
僕が同じ中学の同級生だとは気づいてないかもしれないけど、コソコソ逃げているのは違うと思った。そんな僕に嬉しそうにした船木君と蒲田君が、恥ずかしそうに言った。
「あー、良かった。会えて。さっきの事本当悪かったなって思って。俺可愛すぎてテンション上がっちゃって、バカやった。本当ごめん。」
そう言う船木君を睨みつけた後、蒲田君が僕を見て言った。
「本当、こいつ馬鹿でごめんね。…あのさ、もし間違ってたらあれなんだけど、もしかして同じ中学だった橘…?」
僕が目を見張ったその時、僕の側で様子を見ていたキヨくんが、息を呑んだのを感じた。
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