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「どれだけ年を重ねたって、いつだってあの人がいるのは私の遥か先。高みを目指してなんになるの?実力以上に努力して結果、得られるものなんてたかが知れてる。必死になって、いい大学に行って?大手に就職して?出世して?それがなんになるの?そう思ってた」
「…うん」
「少しだけ力を入れて、ぎりぎりのラインで優等生やって、そこそこの友達づきあいして、そうやってやり過ごした方が賢い生き方だって」
「うん、」
「建前を使いこなせれば、ある程度は社会で通用するんだから。どうせ人と分かり合うなんてできないし、分かり合いたいとも思わなかった」
「うん、うん…」
「欲しいのは、ひとつだけだったのに……」
里央が私をぎゅ、と強く抱きしめる。
抱きしめながら、優しく背中を撫でられる。
「美千香、辛かったね。1人で頑張ったんだね」
涙声で私を慰める里央に、なんで泣くの、と思ったけれど、私の頬にも涙が流れていることに気づく。
自然と溢れていた涙に戸惑う。
なんの計算もなく、人前で泣いたことなんてないのに。
こんな風に人の温かさに触れるのも初めてだった。
少しの間、里央の優しさに甘えた。
―――私と里央は、この時ちゃんと本当の意味で友達になれたのだと思う。
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