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しばらくそうしていたが、やがて彼女はぼくの手を離すと、一歩さがった。
「さようなら」
彼女はそう言うと、くるりと向きを変えて走り去った。ぼくはその背中を見送った。いつまでも、いつまでも……。
そのあと、どうやって家に帰ったかよく覚えていない。気がつくと、ベッドの上に倒れ込んで眠っていたのだ。そして目を覚ますと、いつものように朝になっていた。
昨日の出来事は夢だったのではないかと思った。しかし、それは違った。テーブルの上を見ると、小さな指輪が転がっていた。彼女のものだった。ぼくはそれを手に取り、ぼんやりと見つめた。まるで現実味がなかった。何もかもが遠い世界の出来事みたいに思えた。でも、これは紛れもない事実なのだ。
ぼくは指輪を手に取り、左手の中指にはめてみた。サイズが小さかったので第一関節辺りまでしか入らなかった。ぼくは自分の中指を見ながら思った。
(こんなちっぽけなものが愛の証だったのか)
それから何日かたつうちに、少しずつ気持ちが落ちついてきた。悲しみはまだ心の中に残っていたけれど、それを表に出さずに済むようになった。
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