彼と彼女

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放課後になるといつも真っ先に部活に行くはずの大雅が、この日は教室に残って優亜と2人で机の落書きを消していた。そんな2人がまるで見えないかのように、クラスメイト達は無視をして教室を出て帰っていく。 「琴音、帰ろ」 「あ、うん・・・」 愛香に促され、私も他のクラスメイトと同じように教室を出た。でもどうしても今朝感じたモヤモヤが、気持ち悪いくらいに胸の真ん中にあった。 「ごめん、愛香、先に帰ってて」 「え?!琴音?!」 途中まで一緒に帰ったところで、私は愛香を置いて走り出す。そしてコンビニで除光液を買って、教室へ向かった。子どもの頃に木製のタンスに油性ペンで落書きをしてしまった時に、お母さんが除光液で落としていたのを思い出したのだ。 「・・・私も手伝うよ」 クラスメイトがすっかり帰ってしまって静まり返った教室に、私の声がやけに大きく響いた。驚いた様子でこちらを見た2人の間にある机には、まだ落書きが残っていた。 「これ、使うと落ちるらしいよ」 2人にどんな顔をすれば良いか分からない私は、ろくに顔も見れずに、買ってきた除光液を机の上に置いた。 「さすが琴音。気が利くね、サンキュー」 大雅はそう言うと、いつもと変わらない元気な笑顔を見せてくる。優亜は私が2人きりなのを邪魔したのが気に入らなかったのか、少し機嫌が悪そうで、小声でお礼を言ったあとは下を向いて黙っていた。せっかく戻ってきたのに態度が悪い優亜にイライラしながらも、除光液をテッシュに含ませて机を擦った。 「うわ、すごい!本当に消えてきた!琴音、よく知ってたね、こんなの」 「子どもの頃さ、家の木製のたんすに油性ペンで落書きしたことがあって。その時にお母さんが除光液で消してたの思い出したんだよね」 「さすがおばさん。おばさんって昔からそういう豆知識みたいなの、なぜかいっぱい知ってるよな」 「そうなんだよね。おばあちゃんの知恵袋的なね」 私と大雅はいつもの調子で話しながら、落書きを消していた。優亜はそんな私達の様子を面白くなさそうに、眺めている。でも優亜なんてせいぜい嫉妬でもすればいいと、私は気にせずに大雅に話しかける。少しだけ優位に立てた気がして、密かにスカッとしていた。しかし優亜もこのまま黙っている訳ではなかった。
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