彼と彼女

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「ねぇ、琴音ちゃんなんじゃないの?私達が付き合ってるの、周りにバラしたの」 可愛らしい目で私を睨み付けると、いつもよりワントーン低い声で優亜は言った。突然思ってもみないことを言われたので、私は驚いて目をパチパチさせる。 「ちょ、そんなこと言うのやめろよ。琴音がそんなことする訳ないだろ」 「だって、それしか考えられないじゃん。大雅くん、琴音ちゃんにだけは付き合ってるの話したって言ったよね?私達のこと、知ってるのって琴音ちゃんだけじゃない」 優亜が少し早口でそう言うのを聞いて、ハッとした。さっきから彼女の態度が悪かったのは嫉妬していたわけではなく、私が2人の交際を周りにバラした犯人だと思っていたからだった。 「琴音ちゃん、大雅君のこと、好きなんでしょう?幼なじみとか言って気にしてないフリしてるけど、本当は私と付き合ってるの嫌なんでしょ?だから私がもっといじめられるの分かってて、周りにバラしたんじゃないの?」 勢いに乗ってさらに酷い言葉を紡いでくる優亜に、私は何も言えなかった。そして私が気付かれないように大切に温めてきた想いを、こんなに軽々しく言われてしまったことに腹が立った。言葉は出てこないが、代わりに優亜の可愛い顔を思いっきりビンタしてやりたい衝動に駆られる。悲劇のヒロインぶって泣きそうな表情が、私のイライラを加速させていく。 「適当なこと言うな!俺と琴音は恋愛とかそういうのじゃないんだよ。だから、琴音が言うなんてありえない」 しかし私が優亜をぶん殴る前に、大雅が怒ってくれた。思い返せば子どもの頃からいつもそうだった。大雅は絶対に私を信じてくれていた。だから私も何があっても、彼の味方であり続けたいと思うのだ。 「ごめん、私・・・帰るね。私がいたら雰囲気悪くなっちゃうみたいだから。除光液はあげるから、使って」 2人の不穏な雰囲気に耐えきれなくなった私は、思わず席を立った。そして早歩きで校門に向かう。 歩いてる途中で瞳から一筋の涙が流れてきた。これは一体、何の涙なのか自分でも分からなかった。 大雅が私を優亜から庇ってくれたことは、素直に嬉しかった。言ってないって信じてくれたことも嬉しかった。でも『恋愛とかそういうのじゃない』って、分かってはいるものの、本人の口から聞くとかなりしんどかった。それは私とは何も無いという意志を示して、優亜を安心させようとしているようにも見えてしまった。
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