プロローグ

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愛香は涼しい顔をして、コーヒーをひと口飲んだ。どうやら彼女に、隠し事をしても無駄らしい。 「大雅君、モテるから昔から女の子コロコロ変えてたけど。その中でも琴音はさ、優亜だけ異様に敵視してたよね」 「だって、泣いてたんだもん、あいつ。優亜と別れた時。あんなの、初めて見た」 そう言いながら、高校二年生の時の大雅の泣き顔をフラッシュバックさせる。彼が号泣したのを見たのは、後にも先にもあの時だけだった。そして私は悟ったのだ。彼はどんどん大人になって、他の女の子を好きになって、私の前から居なくなるんだと。私では恋愛対象にはなれないのだと。だって子どもの頃から一緒にいるのに、あんな切なくて悲しそうな顔、私に対してはしたことがない。私は何年かかっても引き出せなかった表情を、たった1年ちょっと付き合っただけで簡単に引き出してしまう優亜が、私は憎くて羨ましかった。 「たぶん、優亜のことは本気で好きだったんだと思う。だから私はあの子が嫌いなの。もう別れて何年も経つけどさ、大雅は優亜がヨリを戻したいって言ったら戻すと思うんだよね。・・・たぶん今でも」 「え、だって、優亜、入籍したんだよ。さすがにもう無いでしょ」 「無いって思いたいよ、私だって。でも実際のところ、結婚しててもしてなくても、優亜が望めばあいつは応えるよ。そんなの、関係ないぐらい、きっと好きだったと思うから」 私の言葉を聴いて、愛香はふぅとため息をついた。そして少し残念そうな声を出す。 「・・・じゃあ、優亜が入籍したことは、別に朗報ではないってことね」 「まぁ、正直、死んだぐらいじゃないと朗報ではないかな」 冗談のつもりで半分笑いながら言ったのに、愛香は本気にしてしまったらしく、「こわっ」と、喉の奥で呟いた。慌てて冗談だよって訂正したけど、彼女は別れ際まで私のことを少し疑ったような目で見ていた。 愛香と別れて家に帰る電車の中で、私は検索して優亜のSNSを見つけると、もう一度まじまじと見つめた。優亜の旦那さんは笑うと目が無くなってしまうような優しそうな人だったが、正直、大雅の方がずっとずっとカッコイイと思った。せっかくカッコイイ大雅に想われていたのに、最終的にこんな人を選んだのかと、何だか少しガッカリした気分になった。
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