彼と彼女

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彼と彼女

優亜とは高校1年生の時に初めて同じクラスになった。この時、大雅も愛香も同じクラスだった。 優亜は典型的な男子には好かれるけど女子には嫌われるタイプで、その可愛らしいルックスと仕草であっという間にクラスの男子を虜にしていった。それと同時にあっという間にクラスの女子からは嫌われていった。私は知り合った当初、とくに実害がなかったので、好きでも嫌いでもなく、さほど気にはしていなかった。無視はしないけど、仲良く話すこともない。そんな関係に変化が起こったのは、高一の夏休み前だった。 「え?!ちょっと、どうしたの?」 夏が近付いてきて、夕方でも汗ばむような暑さだった放課後。私はたまたま忘れ物をしてしまって、一緒に帰っていた愛香を校門に待たせて教室に引き返した。その時に偶然、1人で教室にいた優亜に出くわした。 「まぁ、ちょっと、色々あって。ごめん、気にしないで」 彼女の机の上にはビリビリに破かれたり、「死ね」等の悪口が書かれた教科書が広がっていた。それを見て辛かったのか、優亜の瞳は真っ赤になっていて、頬には涙の跡があった。とくに優亜には興味なかったし、面倒なことには巻き込まれたくなかった。しかしこんな姿を見てしまったので、思わず声を掛けてしまったのだ。 「・・・大丈夫?誰にやられたか、心当たり、あるの?」 「わかんない。ほら、私、嫌われてるから」 優亜はそう言うと、無理矢理作り笑いをした。そんな彼女は痛々しくて、何だか見ていられなかった。それと同時に、彼女は自分が女子から嫌われているという自覚があるのだと驚いた。普段の優亜は堂々としていて、一部の女子から陰口を叩かれていても平気な顔をしていた。だから他人にどう思われようと気にしない、我が道を突き進む強い女の子だと私は勝手に思っていたのだ。 「笑わなくていいよ」 「え?」 「辛いんでしょ?泣けばいいじゃん」 「ありがとう。琴音ちゃんって優しいんだね。でもここで泣いたらさ、これやった人達の思う壷じゃない?この人達はさ、私が辛くて泣いてるのが見たいんだと思うの。そんな人達に負けたくないから」 また精一杯の作り笑いをした優亜は、何だか少しだけかっこよく見えた。今まではふんわりと柔らかくて、何にも考えてない、周りは気にしない、私の中ではそんな印象だった。しかしそれは間違った認識だった。彼女は私が思っているよりずっと頭が良くて、強くて、色々考えている女の子だった。ただのぶりっ子な同級生から少し印象が変わったが、それでも私と彼女の距離は変わることは無かった。私は優亜ほど強い人間ではないので、関わっていじめの矛先が自分に向くのを恐れた。それを優亜もちゃんと分かっていて、必要以上に関わってくることは無かった。やっぱり優亜は頭が良いし、意外と空気も読める。普段は馬鹿なフリをしているだけなんだなと改めて関心した。しかしそんな時、私にとって衝撃的な出来事が起こった。
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