彼と彼女

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「あのさ・・・俺、彼女出来たんだわ。だから今までみたいにさ、2人では帰れない。心配、させたくないからさ」 もうすぐ夏休みが間近に迫った、猛烈に暑さが襲ったある日。大雅は少し恥ずかしそうに私にそう言ってきた。家が隣同士で幼稚園からずっと一緒の私達は、偶然帰りの時間が被ったりすると、自然と2人で帰ったりしていた。それは子どもの頃から、十年以上続けてきた私達の習慣だったりした。だから私はこの日も、偶然靴箱の所で会った大雅と、当たり前のように一緒に帰ろうとした。 「なんで?」 「え?なんでって、だから言っただろ?心配かけたくな・・・」 「今まで、そんなこと一回も言ったことなかったじゃん。彼女、出来たの・・・初めてじゃないでしょ?なのになんで今回は、そんなこと言うの」 突然、私達の今までを否定された気がして、ムキになってしまう。頭に血が登ってきて、顔が赤くなっていくのを感じる。 「なんて言うんだろ?今までの子とは違うっていうか。今回は・・・その、ちゃんと大事にしたいんだよ」 「ふーん、そっか。ま、せいぜい、振られないように頑張ってね」 いつになく真剣な顔で言葉を紡ぐ大雅に、私は酷く傷ついた。このままここにいたら、大粒の涙が零れてしまいそうだったので、「じゃ、先に帰るね」と早口で告げて、逃げるように家に帰った。大雅は帰る私の背中に向かって、「琴音、ごめんな」と少し大きな声で言ったが、聞こえないフリをした。 中学の頃ぐらいから背が伸び始めた大雅は、何だかカッコよくなってしまい、急にモテ始めた。だから告白される機会も多くて、その中の何人かと適当に付き合ったりしていた。それでも誰と付き合っても、私と距離を取ることはしてこなかった。誰と付き合ってても私と大雅の関係は子どもの頃からほぼ変わらなくて、まるで兄妹のように過ごしてきた。だから私は勘違いをしていたのだ。どんな女の子が現れても、私達の関係は揺るがなくて、彼にとって私は特別なのだと。他の女の子と自分は違う存在なのだと。だから最終的に、最後に彼の隣にいるのは自分なのだと思っていた。 しかし実際は私が思っていたのとは、真逆だった。 今までの歴代の彼女達は、期間が短かったかも知れないが、みんな大雅の『特別』になった女の子達だった。私と大雅の関係がずっと変わらなかったのは、私が『特別』なのではなくて、『特別になる可能性のない存在』だからだったのだ。 それを心の底から実感したのは、大雅が〝今までの子とは違う〟彼女と一緒にいるのを初めて見た時だった。
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