彼と彼女

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その日は大雅は、私より先に下校していたようだった。大雅から「彼女が出来た」と聞いてから数日経っていたが、新しい彼女が誰だか分からずにいた。学校でもとくに噂になったりはしていなかった。もしかしたら他校の女の子なのかもしれない、もしくはずっと歳上の女性なのかもしれないと、私は大雅の新しい彼女が気になって気になって仕方が無かった。どうして彼女が出来たと聞いた時に、どんな人?とか、私の知ってる人?とか、質問をしなかったのだろうと後悔したりした。そんな風に思いを馳せながら家に帰った後、自分の部屋から窓の外をぼんやりと眺めていた。私の部屋からは隣の家、つまり大雅の家がよく見える。子どもの頃はお互いの窓越しに手を降ったりしていたが、思春期になると窓際で大雅の姿を見ることは少なくなった。こうやって彼は私を置いて、どんどん成長していくのだろう。いつまでも窓際でぼんやりと月を眺めてしまう自分の幼稚さに、なんだか悲しくなった。 そんな時だった。 大雅の家の玄関から、私服に着替えた大雅と、1人の女の子が出てきたのは。 私は驚いて、身を隠した。そして気付かれていないのを確認すると、もう一度ゆっくりと玄関に視線を落とす。 「・・・うちの制服?」 大雅と一緒に出てきた女の子は、うちの学校の制服を着ていた。同級生なのか、それとも先輩なのか、同じクラスか、違うクラスか。気になって私は目を皿のようにして2人を見つめる。 すると今度は2人の影がゆっくり近付いていって、やがてひとつに重なっていった。 ショックだった、とても。 まさか、ずっと片想いをしていた幼なじみが他の女の子とキスしているのを見てしまうなんて。 私が見ているなんて思ってもみない大雅は彼女に夢中で、ゆっくりと唇を離した後、恥ずかしそうにはにかんで下を向いた。それは私が一度も見た事がない表情だった。彼女もここからでは顔が見えなかったが、小さな背中から大雅への愛おしさが伝わってきた。 これ以上2人を見ていたら自分が惨めで仕方なくなるので、部屋のカーテンを閉めようとすると、彼女を送るために駅に向かって歩き出した大雅と目が合ってしまった。そして驚いて立ち止まった彼を心配そうに見つめる彼女の顔も、遅れてこちらを見た。私は彼女のバンビのように大きな瞳を見ながら、驚きを隠せなかった。 それが数日前、教科書をビリビリにされて1人で教室で泣いていた優亜だったからだ。
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