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どんな顔をして良いのか分からなくて、私は慌てて部屋のカーテンを閉めた。動揺と混乱で訳が分からなくなる。
優亜と大雅がキスをしていた。
大雅は今までとは違う、大切にしたい彼女ができたと言っていた。
つまり、大雅の彼女は優亜・・・ということになる。
嘘だ、嘘だ。そんなの信じたくない。
ベッドに潜り込み、私は声を押し殺して泣いた。よりによって相手が優亜だなんて、信じたくなかった。
男の子には可愛くて人気があるけど、女子には嫌われている優亜。一部の女子に影でいじめられていて、女子の友達は一人もいない優亜。
二人が付き合ってるなんて、こんなに近くにいたのに全然気が付かなかった。そして改めて、自分が大雅の〝特別〟になることはないんだと思い知る。
「琴音、琴音?入るよ!」
二人を目撃してから数分後、乱暴に私の部屋のドアをノックして、大雅が部屋に入っていた。優亜を駅に送ってきてから、直行してきたのだろう。
「ちょっと!入っていいなんて言ってない!」
私はどんな顔して大雅に会えば良いのか分からずに、布団を頭まで被って丸まった。慌てて涙を拭いて、枕に顔を押し付ける。
「おばさんは入っていいって言ってたけど」
「私はいいって言ってないもん。出てってよ」
「なんで?具合悪いの?生理痛?」
布団を被っている私を見て、大雅はぶっきらぼうに言い放つ。さっきの優亜を大切そうに見つめる瞳とは違った雑な扱いに、イライラする。
「ちょっと、デリカシー無さすぎ。本当、ウザイ。出てってよ」
布団から這い出ると、私は大雅を部屋の外に押しやろうとする。でも大雅は私よりずっと力が強くてビクともしない。だから今度は、ベッドの近くにあったクッションやぬいぐるみを投げつけた。
「ごめん、ごめん。怒るなよ。ちょっとだけ、話聞いてくれない?」
その話が聞きたくないからこっちは必死で抵抗しているのに、大雅は私の気持ちなんて無視をして話始めた。
「あのさ、さっきのことなんだけど・・・その、見たよね、俺が彼女と一緒にいるところ」
「見たけど。仲良く駅に向かって歩いてるところ。だから何?わざわざ惚気に来たの?」
「違う、そうじゃなくて。あのさ、周りに言わないで欲しいんだ。俺の彼女が、秋月さんだってこと」
そう言って少し恥ずかしそうな困ったような顔をした大雅は、まるで知らない男の子のように思えた。私はこんな顔をする大雅を知らない。
「なんで?付き合ってるの知られなくないの?」
「俺は別にかまわないんだけどさ。彼女が、さ・・・」
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