彼と彼女

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次の日学校に行くと、教室の様子がいつもより騒がしかった。ヒソヒソと何人かの女子が話をしていて、その視線の先にいるのは、下を向いて自分の席に座っている優亜だった。よく見ると優亜の机には、『くそビッチ、男好き』と、油性マジックで大きく書かれていた。一体何事かとあたりを見回すと、少し怖いギャルグループのリーダーが私に詰め寄ってきた。 「ねぇ、琴音は知ってたの?優亜と大雅が付き合ってるって」 「え?」 「幼なじみじゃん、大雅と。このくそビッチが大雅にまで手を出してるって知ってたの?」 「・・・いや、わたしは・・・何も」 彼女の勢いが凄くて、私は思わず知らないフリをしてしまった。そして何が起こったのか、大体把握する。大雅と優亜が付き合ってることが、クラスのみんなにバレたのだ。 「少し可愛いからって調子に乗っちゃってさ。私の彼氏に手出した次は、大雅かよ。本当、何様なの?!」 教室の真ん中で激高するギャルを見て、そういえば彼女の彼氏は優亜が好きになったって言って彼女を振っていたことを思い出す。でもそれは彼氏側が勝手に好きになっただけで、確か優亜はとくに何もしていないはずだ。 本当は何か言って守ってあげた方が良いのだろうけど、とても私にはそんな勇気はなくて、黙ってその様子を見ているしか出来なかった。 「隣のクラスの子が見たんだって。昨日の夕方、大雅と優亜が手を繋いで歩いてるとこ」 黙って立ち尽くしている私に、そっと近付いてきた愛香が教えてくれた。その言葉を聞いて昨日窓から見た、幸せそうに手を繋いで歩いていく2人を思い出す。 「大雅もさ、なんで優亜なんだろうね?やっぱ顔なのかね?」 他の女子達と同じであまり優亜のことをよく思ってないらしい愛香は、独り言のように呟く。それに対して私は、 「そうなのかもね。まぁ、飛び抜けて可愛いもんね」 と、愛想笑いすることしかできなかった。 相変わらず下を向いて落書きされた席に座る優亜は、私が密かに望んでいた通り嫌な想いをしていて、いい気味だと思った。しかしいい気味だと思っているはずなのに、心のどこかでモヤモヤしている部分もあった。どうしてこんな気持ちになるのか、自分でもよく分からなかった。
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