明樹くんは 確かにいた

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「ごめん。すぐに決断がつかなくて、君はたくさんの記憶を失ってしまった。だけど、僕の記憶も手放せば君の他の記憶は石には必要なくなり君に戻るはずだ」  嫌だと叫びたかった。  せめて明樹くんには覚えていてほしかった。    だけど、それは自分勝手なわがままだと私はわかっていた。  反対の立場だったらきっと私もそうしたと思うと何も言えなかった。  私はそっと明樹くんの首にペンダントをかけた。  ペンダントの鎖はみるみる縮み首輪のように明樹くんの首に収まった。 「僕たちは忘れてしまうかもしれない。だけどきっと僕たちが出会いの場所に立つ樹はきっと覚えていてくれる。たとえ誰にも話せないとしても」  もう時間がないらしい。  明樹くんの姿はもうほとんど見えない。
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