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「太田さんは、その……オタク、なんですか?」
「そうです」
こんな仕事のできる人が? 私と同じオタク?
信じられない。
「なかなか社会人になると同じ趣味の人見つけられないですから、声かけちゃいました。良かったらLINE交換しません?」
「え、あ……いいですよ」
「ありがとうございます!」
太田さんは嬉しそうだ。私はまだ信じられなかった。太田さんがオタクだってこと。
LINEに「akane」の文字が増える。あかねさんだったのかと一人考える。
「いやー、オタ友はいるんですけど、アメセカ知ってる人いなくて。君島さん、今度良かったら鑑賞会しません? うち一期から録画してるんで。もしよかったら」
今やってるアメセカは三期だ。私は二期の途中から知ったから、一期を知らない。嬉しい提案だった。
「お願い、したいです」
私が答えると、太田さんは微笑んだ。
「やった! じゃあおいしいお菓子用意しときますね!」
太田さんは時計を見る。
「もうこんな時間ですか。すみません、私ばかり喋って」
「大丈夫です。私がコミュ障なだけで」
「そんなことないですよ、君島さんはちゃんと私と話せてますから。大丈夫ですよ」
自分の存在を認めてくれた気がした。
太田さんは手に持っていたパンを急いで食べる。
「げほっごふぉっ」
「大丈夫ですか!?」
「だいひょうふれす」
むせながらパンを平らげる太田さん。
「じゃ、またあとで!」
太田さんは立ち上がり、彼女の席へ向かっていく。
私は食べかけのサンドイッチに気づいて、もぐもぐ食べる。
鑑賞会、か。参加したことも主催したこともないけれど。
もしかして太田さんと友達になれた? オタ友って言ってたよね?
ってことは……ぼっち卒業?
私は嬉しくなってつい唇を噛む! 痛い! でも嬉しい!
独りぼっちだった私に突如降り注いだ友情。
それは君島の人生を左右する出会いだった。
君島はそんなことを知る由もないのだった……。
次回、「太田さんの家」。お楽しみに!
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