清し雪降る夜に

3/3
前へ
/3ページ
次へ
「寒いでしょ。……ここのお店。いっつも寒いのよねえ。でも、慣れてしまえば平気よ。たまに……暖かくなるの。それは人のぬくもり。あなたも、しばらくすると暖かい光に包まれるかも知れないわね」 「へえ……そうなんですか」 「あら、疑ってらっしゃる? 本当よ。試しに天井を見上げてみてごらんなさい」 「……?」    私は騙されたと思って、上を向いた。  途端に、急に居酒屋の店内全てが光りだした。 「あら! あなたって、とても運がいいんだわ……ほんとラッキーよね」  そうだ。  私は運がいいんだ。  恋人と別れた後、一人でフラフラと歩いていたら車に轢かれてしまった。  それから、近くの電灯に寄り掛かっていたんだ。  飲みたかったビールも初めて飲めた。  好きだった恋人から、遠ざかってからも心底楽しめたんだ。 「さあ、ゆっくりと目を覚まして……救急車が来てくれたわ。あなたはこの先も色々な居酒屋へ行けるのよ」  女の歓喜の声が鳴り響き続け。  遠くからサイレンの音がした。  店内の光は殊更強くなった。  ちょうど、救急車のライトに照らされたよう。  両手を見てみると、両方とも血のりがついていた。  そういえば、今日はクリスマスだった。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加