5人が本棚に入れています
本棚に追加
「寒いでしょ。……ここのお店。いっつも寒いのよねえ。でも、慣れてしまえば平気よ。たまに……暖かくなるの。それは人のぬくもり。あなたも、しばらくすると暖かい光に包まれるかも知れないわね」
「へえ……そうなんですか」
「あら、疑ってらっしゃる? 本当よ。試しに天井を見上げてみてごらんなさい」
「……?」
私は騙されたと思って、上を向いた。
途端に、急に居酒屋の店内全てが光りだした。
「あら! あなたって、とても運がいいんだわ……ほんとラッキーよね」
そうだ。
私は運がいいんだ。
恋人と別れた後、一人でフラフラと歩いていたら車に轢かれてしまった。
それから、近くの電灯に寄り掛かっていたんだ。
飲みたかったビールも初めて飲めた。
好きだった恋人から、遠ざかってからも心底楽しめたんだ。
「さあ、ゆっくりと目を覚まして……救急車が来てくれたわ。あなたはこの先も色々な居酒屋へ行けるのよ」
女の歓喜の声が鳴り響き続け。
遠くからサイレンの音がした。
店内の光は殊更強くなった。
ちょうど、救急車のライトに照らされたよう。
両手を見てみると、両方とも血のりがついていた。
そういえば、今日はクリスマスだった。
最初のコメントを投稿しよう!