短編集

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                 一人 朝、目が覚める。枕元に置いたデジタル時計は午後五時を示していた。どうやら窓から差し込む赤色は朝日の赤ではないらしい。時間割を思い出すまでもなく、大学の講義はとっくに全部終わっていた。ついでに、世界も。 ”世界の終焉" 数えきれないほどの歌や物語、日常のくだらない会話からカルト教団の教義に至るまで有史以来いたるところでつかわれてきたそのあいまいな概念がどうしようもない現実として僕の前に顕現してしまった。丸一日寝ていてせいか以上に腹が減っていた僕は、起きてすぐに近くのコンビニまで自転車で走った。自慢じゃないが、僕は家事炊事が一切できない。毎日コンビニの飯を食ってはそのごみを床にうずたかく積み上げるという原人のような生活を送っている。最初に決定的に違和感を感じたのはコンビニの中だった。店員がいない。客もいない。平日の帰宅時間、大学のすぐ横のコンビニ。まずありえないシチュエーションだった。しばらくは商品を見定めるふりをしながら店内をうろついていたが、歩き回るうちに色々考え急に気味が悪くなってくる。結局、十分もしないうちに我慢できず店を出てしまった。そこで、衝撃的な事実に気づいた。 「車、通ってないじゃん…」 そのコンビニは大学前の大きな幹線道路に面している。いくら都心から少し離れるとはいえこの時間は帰宅ラッシュで交通量も相当多い。車が一台も見えないのは、コンビニ内が無人なこと以上にありえないことだった。この時点で、僕は一つの結論にたどり着いた。 人間消えた? 引きこもってSF小説はファンタジー漫画ばっかり読み漁っている僕がこの結論にたどり着くのは必然だった。人間なんて消えてしまえ!と普段からよく考えていたのも一因としてある。どちらにせよ、願ってもない状況だ。こういう状況はよく妄想していたのでやりたいことが山ほどある。 しかし、奇跡が重なりこの時間この場所にたまたま人間がおらず、車も通らなかっただけ、もしくは寝てる間にきたのほうから核ミサイルでも発射されて一帯の人間がみんな避難してしまった、究引きこもりすぎていよいよ気が狂いほかの人間が見えなくなってしまったなどなど、様々な可能性が残っているため、それを実行する前にもう少し念入りに人類の消失を確認することに決め、家へと踵を返した。自転車をこぎながらふとある映画を思い出した。自分以外の人類が忽然と姿を消した世界で主人公が暮らしていく話、タイトルは思い出せない。つまらない映画だったな、確かラストは── 子供のころに見たB級映画、結局家に着くまでラストは思い出せなかった。 まっさらな道路の上に連なった信号機が意味もないのにちかちかと点滅していて面白かった。車の一切通らないアスファルトに、傾き切った西日がよく映えた。一日が終わろうとしている。
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