新聞部活動日誌⑫ 読書にも時代の波は押し寄せる(図書館開放クラブ)

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図書館開放クラブ。 図書委員会とは別に設けられているクラブ活動のことである。その活動内容は休日や祝日に学校の図書館を開放し、近所の子ども達を中心に、御薦めの本を紹介するクラブだ。お勧めする内容の本はアンケートや、開放日に貸出回数が多い本が基準となる。 「なるほど。それで、次の月末の土曜日が紹介日なのですね」 「はい」 「面白そうですね。その日も取材に行きます」 「ありがとうございます。ただ、今回お越しいただいたのは、その件ではないのです」 「では、一体」 すると、開放クラブの部長はソファーから立ち上がって、十冊の本を持ってきた。 「これは?」 「アンケートや過去の記録を基に選出された上位五位の本です」 「ほう。拝見してみてもよろしいですか」 「どうぞ」  新入記者は本を一冊一冊見ていった。  『老後資金二千万円の貯め方』  『あなたも出来る。毒親の切り捨て方』  『ユーチューバーか会社勤めか』  『好きなことで食べて行きたいと言う幻想』  『資格ビジネスに騙されるな』  何とも言えない気持ちに記者はなった。 「……あの、これって、本当に上位の本なのですか」 「はい。恐ろしい事に」 空虚な現実がそこにはあった。 「何だか最近の子どもは大人びていると言うか、しっかりしているというか」 「何だか悲しいです」 「はい。もっと自由に生きて欲しいです」 明るい取材のはずが、たちまち暗くなってしまった。 「この本、紹介するのですか」 「それが、このクラブの存在意義です」 「素晴らしいです、そのプロ根性」 「ありがとうございます」 「では、当日も取材に伺います。ただ、一つお願いできますか」 「はい。何なりと」 「当日、絵本を読んでいただけますか。とびっきりメルヘンチックな」 「どんな風な」 「カチカチ山とか」 「それ、解釈を変えれば、復讐劇ですよ」
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