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三
「ねえ、令賢。私考えたんだけど」
「翠蘭、お前に頼みがあるんだが」
私の言葉を遮り、令賢は私の方を真剣な顔でじっと見た。
「頼み……って、何?」
「俺はそろそろ」
「うん、そろそろ?」
珍しく真剣で男らしい眼差しに、私はひるんで後ずさる。
令賢は私を逃すまいと、私の右手首を掴んだ。
右手に持っていた箸が、カランと音を立てて床に散らばる。
「……令賢、何?」
「もう即位して二年。俺もそろそろ……子が欲しいんだ」
令賢の顔が近い。
手首を掴む彼の手は、私が覚えている子供の頃のそれとは違って男らしくゴツゴツしている。少し怖くなった私は、令賢の顔から視線をそらした。
「……それで、私に協力しろってこと?」
「そうだ」
「…………」
「翠蘭」
「…………分かった。協力するわ。私と貴方の仲だもの」
「翠蘭!」
満面に笑みを浮かべた令賢は、掴んでいた手首を引いて私を抱き締めた。
「ありがとう、翠蘭」
「別にいいわよ。令賢のことを心から好いて大切にしてくれる妃を探せばいいんでしょ? 任せといて。三日もらえれば何とかするわ」
「は?」
令賢は私の体を放して、間抜けな顔でこちらを見る。
「何よ、三日くらい我慢できないの? 数が減ったとは言え、後宮にはまだ数十人は妃が残ってる。全員と会って話して、令賢のことを好きかどうか聞かなきゃいけないんだもの。それくらいは我慢して……って、どうしたの? 令賢」
床の上に仰向けで寝転がる令賢は、私の言葉に返事もせずに唸っている。
私はだんだん腹が立ってきて、無防備な令賢の腹を拳で一発殴りつけた。
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