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四
「冬月。徐妃と林妃に遣いを出して、内院の四阿に来るように言ってちょうだい。それと、お茶と菓子を準備して欲しいの」
「はい、翠蘭様」
令賢に頼み事をされた翌日、私は早速後宮の妃たちとの面談を始めた。
もっと早く他の妃たちと話をすれば良かった。
私とは違い、他の妃たちは令賢から愛されている。幼馴染で悪友の私には見せないような男の顔を彼女たちは知っているかもしれない。
それを知って惨めな気持ちになりたくなくて、これまでは他の妃たちとは距離を置いて来た。
でも、皇帝の手が付いていない私が後宮を出る決心をした今、そんなことは気にしていられない。
彼に私の想いは通じなかったけれど、この六年間は決して無駄じゃなかった。
令賢と一緒にいる時間はとても幸せだったし、遠くから令賢の姿を眺める時間も好きだった。
子供の頃の令賢を知っている妃は私だけだという優越感に縋りながらの切ない恋だったけど、こんな気持ちを教えてくれた令賢には感謝している。
この六年間の恩を返すためにも、最後に令賢が心を通わせる相手を見つけ出してからここを去りたい。
それが、私が彼にできる唯一の贈り物だ。
――それなのに。
「何でみんな、揃いも揃って令賢のことを好きじゃないなんて言うの――っ!」
私は自分の房の寝牀に突っ伏して、大声で叫んだ。
どう考えてもおかしい。
この三日間、朝に昼に夕に後宮中の妃たちと話をした。三十人以上に令賢への気持ちを聞いたのに、皆口を揃えて同じことを言う。
『私は皇帝陛下のことは特にお慕いしておりません……!』
全員が揃いも揃ってそう言うと、それ以上何も聞くなと言わんばかりにそそくさと去って行くのだ。まるで誰かが後ろで糸を引いて彼女たちを操っているように。
(まさか、令賢の寵愛を独り占めしようとする極悪妃がどこかに潜んでいるんじゃないでしょうね)
この二日で、ほとんどの妃との話は終わったはずだ。
残るは一人、秋明殿の陶妃のみ。
陶妃はこの後宮の中で最も位の高い妃だ。
私よりも目上なので、最後に私の方から秋明殿に出向こうと思っていた。
もし陶妃が本当に極悪後宮妃ならば、全て辻褄が合う。
何と言っても、陶妃の父親はこの国の宰相だ。
彼女の身分の高さを利用すれば、他の後宮妃たちを操ることなど容易い。
きっと陶妃は、こう言ったのだ。「陛下の訪いがあったら、後宮から出たいと申し出るように。さもなければお前たちの父を官職から降ろす」と。
それなら、私にだけ陶妃から声がかかっていないのも頷ける。
だって私は幼い頃に父も母も亡くした天涯孤独の身で、官職を追われる身分の家族など一人もいない。
「我ながら名推理だわ!」
「翠蘭、俺が来てること気付いてる?」
「わっ! 令賢!」
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