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五
先触れもなく、突然令賢がやって来た。
令賢のことを好いてくれる妃を探すのに三日かかると伝えておいたのに、やはり三日も待てなかったようだ。
(どれだけ女好きなのよ……)
私は口を尖らせたまま、令賢が座る場所を整える。
「ん。どうぞ、座れば」
「お前なあ。皇帝に対して無礼だぞ」
「はいはい、すみませんでした。好色の皇帝陛下」
私の言葉に腹を立てたのか、令賢は鼻を鳴らしてドスンと座る。
「……明日で三日だ」
「そうね。残念ながら、陶妃様以外の妃たちにはフラれちゃったわ。でも大丈夫よ、明日は陶妃様ときちんと話して説得してくる」
「説得? 何を?」
呆れた。
私が惨めな気持ちを押し殺して、頑張って令賢の妻になる人を探す努力をしていると言うのに。
次々に妃たちにフラれて可哀そうだなんて思っていたけど、そんな気持ちは撤回だ。
「だから、陶妃様にハッキリ言うのよ。皇帝陛下の跡継ぎのためです、陶妃様以外の妃が陛下の寵愛を受けることをお許し下さいって」
「……もしかして翠蘭。俺の気持ちを分かってくれたのか?」
「令賢の気持ち? よく分かってるつもりよ」
「そうか、やっと分かってくれたか。長かったよ」
そんなに私のことが嫌い?
私だって、貴方の後宮妃なのよ。
どうして他の妃と結ばれるために、私がお膳立てしなければならないの?
今にもこぼれ落ちそうな涙を堪える私の目の前には、目がなくなるほどに満面の笑みを浮かべる令賢の姿。耐えられなくなった私は無理矢理令賢を房から追い出し、寝牀にうつ伏せで倒れ込んだ。
「蝉って死ぬ間際、こういう気持ちなのかな」
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