気づき

1/3
前へ
/8ページ
次へ

気づき

 骸から取り込んだ思念に自身を染め、姿形を変える戯れは、その後も続けていた。しかし迷宮への侵入者や再配置された魔物がいる場合には、その戯れは行わないようにしていた。敵対、あるいは友好、そのいずれでも、その姿を知り、関わる存在だとすると無用な軋轢(あつれき)を生む可能性がある。己が身の滅ぶ恐れはないが、不当に関わることはしない方がよい、これまでの数々の思念からそれを知っていた。  だがその一方で、そうした存在との邂逅によってどんなことが起こり得るのか、叡智の塊は『興味』を抱いた。好奇心、これも多くの魂が持っていた感情であり、数々の論理や研究を推し進めるためのきっかけとして機能していたからである。  今日も迷宮への侵入者が訪れ、迷宮を守護する魔物の一団と戦いを繰り広げていた。叡智の塊は、邪魔にならぬよう、玄室の隅でその様子をつぶさに観察している。  侵入者たちはまだまだ力量不足のようで、戦局は終始魔物の一団が優勢であった。ただ、そのまま戦闘を継続して骸を晒すつもりはなさそうで、形勢不利と見るや、侵入者たちは迷宮から逃走を図った。  逃げて行く侵入者の中に、叡智の塊は、なぜかその背中に見覚えのある姿を見つけた。実際に自分が見たものではなく、取り込んだいずれかの思念が持っていた記憶の断片と酷似していたのだ。記憶とは姿形は違えど、その者から発せられる魂の波形がほぼ一致していた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加