真夏の因果律

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「R県の山奥だよ。海なし県で有名な、あの山深い県だ」  本人は非常に行きたくないようで、手伝い募集をしているとは思えない強い口調で、とんでもない山奥だと説明してくれる。それに小島はははっと笑ったが 「あそこ、フェーン現象で暑いんですよね」  と、マイナス要因を言ってしまう。そう、R県は毎年のように猛暑を記録したとニュースになる県の一つだ。正直、夏の暑い時期に訪れたい場所ではない。桐山でなくてもそう思ってしまう。 「ああ、暑い。俺は行きたくないんだが、祖父母もそろそろ年で、思い出の品だけ残して後は売り払いたいとか言い出し、じゃあ、誰が片づけに行くんだと親戚中で議論になり、なぜか俺のところに回ってきた。押し付け合ったあげくに人に押し付けるとは何事か。まったく、今年はよりよって海外に行く予定がないからな。暇な時間があるだろうと、そこを狙われたというわけだ」  桐山は整った顔をぐしゃっと歪め、苦々しいと全力で表現してくれる。やはり夏嫌いの男。夏にそんな重労働はしたくないようだ。 「急いでいるんですか」  深瀬はこのタイミングじゃないと駄目なのかと訊ねる。すると桐山はますます嫌そうな顔をした後
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