真夏の因果律

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 ううむ。素晴らしく面倒な状況だ。深瀬は溜め息を吐く。先祖代々を持ち出されると途端に議論が混迷する、というのは日本全国どこでも起こり得る問題だろう。地縁を大事にする文化があるから仕方ないことだ。 「つまり、先生はお金持ちってことですか」  そこに別の観点から疑問を持ったのが、修士課程一年の柏木真穂(かしわぎまほ)だ。長い髪を掻き上げ、目をキラキラとさせている。  大きな家と大きな土地を持っている。そこに食いつくのはどうなのか。深瀬はそんな柏木の反応に少し呆れつつ、女の子らしいなと思った。しかし、まだ何日掛かる、何人行くとも決まっていない段階で日当一万円を提示できるくらいだ。その疑問は尤もである。 「俺は金持ちじゃないよ。現状は祖父母が金持ちってことだな。いや、あんな田舎の土地の地価なんて知れているし、それほどでもないかも」  それに対し、無駄に厳密な答えをするのが桐山だ。理系にありがちな、屁理屈ともとれる言い分だが、自分で自由にできるお金ではないと言いたいのだろう。それはすなわち、自分のポケットマネーはたかが知れていると主張しているようなものだ。
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