真夏の因果律

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「おーい。お盆の間、暇な奴はいないか」  研究室に唐突に響いた、のんびりとした声に一応はその場にいた全員が顔を上げた。それもそのはず、そんな唐突なことを言い出したのはこの研究室の主、桐山夏樹(きりやまなつき)だったからだ。  夏生まれで夏樹と命名された三十五歳のこの男は、実は大の夏嫌いである。しかもインドアはだ。そんな彼がお盆の予定を、それも研究室のメンバー全員に対して行うなど、それこそ前代未聞の出来事であった。  と、この段階で多くの研究室メンバーは、この暇な奴募集が良からぬことであることを察する。決してバーベキューやキャンプのお誘いではないはずだ。夏嫌いの男が夏の思い出を研究室のメンバーと共有したいと思っているはずがない。やるならば冬のはずだ。みんなでわいわいするのが嫌いというわけではない。実際、冬にみんなで安いカニ会席が付いたプランで、温泉街に一泊二日の旅行に出掛けたことがある。 「……」  あれこれと思考が駆け巡り、研究室の中に、何とも言えない沈黙が降りる。と同時に、どう答えるという探り合う視線があちこちで交わされた。 「あの、どうして暇な人がいるか確認するんですか」
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