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「おおおおおおおおおお!まずは魔法を手に入れるのだああああああああああ!」
私が呼びだした異世界転生者の男は、現在大きな荷車を押しながら爆走している。村人の依頼、隣町まで重たい荷物を運んでくれミッションを完遂するためだ。十往復して荷物を全て運ぶと、まずは最下級の炎属性の魔法が使えるスキルが解禁されるのである。
「ふふふ、全ては、楽してわくわく異世界ライフを過ごすためじゃ。絶対スキル解禁してみせるぞおお!」
「ありがとうございます、勇者様!」
「いやいや、かたじけない!」
村人に感謝され、まんざらでもなさそうな男。全ては楽してチートスキルを入手するため、なのだが。
気づいているだろうか。
最下級魔法スキルを入手するために、村人の荷物運び。
簡単な治療魔法スキルを手に入れるために、村の薬草採集ミッション。
その他、中級魔法を学ぶためには学校で勉強をする必要があったり、スローライフ下級スキルのためには農家でアルバイトが必要だったり――と。実は、まったく楽などできていないということに。
――人間、モチベって大事なのかしらねえ。
私は苦笑いするしかない。
此処は、現代で楽をすることしか考えなかった者達が根性を鍛え直されるために送り込まれる異世界。
男が最初に挙げたスキルを全て手に入れるためには、多分あと二十年ばかりかかることだろう。
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