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家に帰り着いた時には、日はとっぷりと暮れていた。
灯りを点すと、ありふれた集合住宅の、ありふれたリビングが照らし出される。
夫は、火酒の瓶に囲まれて項垂れていた。いつも通りの光景だ。
私は感情を押さえつけ、明るい声を出した。
今日は、ちょっと良いお肉を買って来たのよ。あなたの好きなシチューを作るわね。
「マーシャ、どうだった?」
彼の声は震えていた。私は質問に応えず、続けた。
私も、お酒を一口頂こうかしら。
「マリア、俺の質問に答えろ!」
ガラスが割れる音が、室内に響く。
私は黙って俯き、首を振った。
「済まない…済まないマーシャ…」
ややあって、夫は声を絞り出す。それからドタドタと足音がして、玄関のドアが乱暴に閉じられた。
今夜もまた、あの安酒場へ行くのだろう。
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