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僕は、気づけば高校を卒業し大学生になっていた。幸いなことに、同じ学部に知り合いはおらず僕は平凡な大学生活を送ることが出来ていた。それでも、僕の脳裏には時々晴果の顔が浮かぶ。
あの日から四年ほど経ち、僕が成人を迎えた頃、たまたま早く帰れる日があってその日は最寄りの駅に着くと五時のチャイムが鳴った。僕たちの約束の鐘。僕は思わず周りを見渡した。すると、あの時と変わらない美しい姿をした晴果の姿が目に入った。
晴果と最後に出会った日、別れ際の彼女の表情を見て、僕は全てを思い出した。あの切なく悲しい晴果の表情を見たのは、あれが初めてではなかったからだった。
あの日のことを思い出してから、いろんな思いが複雑に絡まって、苦しくて、辛くて、僕はしばらく立ち直れなかった。でも、どれもこれも、僕らにとってはもう過去のことだ。未来はこれからいくらでも作っていける。
僕はゆっくりと歩き出し、晴果の方へ向かった。晴果に近づくと、晴果の姿が今では自分の目線の下にあることに気づく。
僕はゆっくりと呼吸をし、晴果の肩をそっと叩いた。
晴果は後ろを振り向き、驚いた表情をしていた。
僕は微笑み、話し始めた。
「晴果さん、ううん、お母さん、久しぶり」
「…!!修二、なんで…」
「もう、全部思い出したよ。優しいお母さんのこと全部。それからずっとあの日のことを謝りたかった。話を聞いてあげなくて本当にごめんね、僕はずーっとお母さんのことが」
「大好きだよ」
僕がそういうと、お母さんは静かに泣き出した。赤く染まった太陽が、僕らを温かく照らしていた。
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