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プロローグ
黄色や赤に染まり始めた葉が、くるくると転げまわる秋の午後。
町のはずれにあるこじんまりとした三毛音書店は、大賑わいとまではいかずとも有り難いことに今日も客が途切れることはない。
重量のある本を淡々と運びながら、ここで働く猫田涼も自動ドアが開く度「いらっしゃいませ」と出迎える。顔は極力上げはしないが。
「猫田くん、今いいかい? 探している本があるんだけど……」
「あ、田中さんおはようございます。それならこっちっすね。一緒に行きます」
それでも、数人いる店員の中からわざわざ涼を探して声をかける客もいる。
そのほとんどが老齢の人たちで、何十年も生きてきたから涼の容姿に怯むことももうないのか、はたまたその本質を見抜いているのか。
見上げる先に派手な金髪が揺れようが、ジャラジャラといくつものピアスが光っていようが構いはしないようだった。
「ああ、これだ。いつもありがとうね」
「いえ、こちらこそいつもありがとうございます、っす」
小さな達成感を確かに胸に灯しながら、涼は小さく会釈して先ほどまで勤しんでいた作業に戻る。
幼い頃から本が好きで、高校に上がって始めたこの書店でのバイトがきっかけで卒業後に雇って貰った。
懇意にしてくれる客たち同様、店長も涼を可愛がってくれているし、同僚たちとの仲も特段悪くはない。
現状に不満はない。
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