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大地が何を言おうとしているのか手に取るように分かる。
それをわざと勿体ぶった言葉遊びがくすぐったくて楽しい。
ベンチの隙間をひとつ埋めれば、両手を座面についた大地がくすくすと笑みながら涼の顔を覗きこむ。
「店員さんは猫みたいっすね」
「うん。なあ大地」
「はい」
伝えたいことがたくさんある。
自分を信じられる気持ちをくれたこととか、楽しくて仕方ない日々へのありがとうだとか。
けれどとりあえずは、待ってくれていた十八の君へ。
今すぐに差し出したい気持ちが今か今かと泣いている。
「好きだよ、お前に出逢えてよかった。待っててくれてありがとうな」
「涼さん……オレも大好きです」
「ふは、泣き虫」
「っ、だって……もう~かっこよく決めたかったのに、嬉しすぎて無理」
不貞腐れた顔を濡らす雫に手を伸ばす。
美しいそれが自分のために流れるなんて、これは宝物にちがいない。
「すげーかっこいいよ。……大地」
制服の袖を引いてそっと顔を近づける。
それだけで何がしたいか分かってくれる大地がまぶたを閉じるスローモーション。
この瞬間をずっと、絶対に忘れない。
合わさったくちびるがあたたかくて、今度はふたりで泣いて、それから笑う。
ひとつになった想いを守り続けることが、これからの幸福なのかもしれない。
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