プロローグ

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 新しく入荷した本たちを新刊コーナーにどう配置しようか。  腕を組んでじっと眺めていた涼の視界の端に、ひとりの女性客が映った。  きょろきょろと辺りを見渡している様子に探し物があるのだとすぐに気づく。  だが、自ら声をかけることは極力しないと決めている。他に手の空いている者はいないだろうか。  レジのほうを伺うと運悪く混雑している。近くの棚にも誰も見当たらない。  仕方なく、涼はそっと深呼吸をしてからその客に声をかけた。 「あのー……」 「はい。っ、え、っと?」  やはり、だ。  自ら涼に声をかけてくる者は稀有な存在で、この反応こそが涼にとって“普通”であった。  それでもビクリと跳ね上がった肩と見開かれた目に申し訳なく思いながら、涼は「店員呼んできますんで」とだけ言ってその場を離れ、小さく細くため息を往なす。  大丈夫、もう慣れている、いつものことだ。こんなナリをしているのは自分の意志だし。  怖がられることに不満を抱いたり、それでも分かってほしいと理解を求めることなんて、もうとっくの昔に放棄したのだ。
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