黒いのは

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黒いのは

俺らが病院に着く頃 持ち直してはいたが 今夜が山だと担当医に告げられた 邦彦の母を囲むように座る 俺がこの場に居ていいのか悩んだが 邦彦の動揺があまりにも酷いので邦彦の横にいる 邦彦の母は、うっつらうっつら 時々目を覚ますが俺らを見ない ただ、時々「くにさん」と呟く こんな時なのか、こんな時だからなのかわからないが この女性の最後の最後まで想い人であるであろう父の事が 許しがたく、また羨ましくもある 「母さん…」 邦彦が母の手を握る 「おばさま、しっかり」 及川君も手を擦ってる 「邦彦…一人にしてごめんね… 賢二君……ありがとね」 意識がはっきりしたのか二人に伝える 「ああ…くにさん迎えに来てくれたの? 勝手に生んでごめんなさい… けど大きくなったでしょ 小さい頃は、薫くんに似ていたのよ」 俺の方に手が伸びたのを驚いたのか 話の内容に驚いたのかわからないが心臓が痛くなった 俺は、この女性(ひと)と会った事がある? 全然記憶に無い… 俺が怯んだのがわかったのか 邦彦が伸ばした手を自分に引き寄せた けど、俺は最後 幸せで旅立って欲しいと思い 二人の手を包み込み その女性〈ひと〉の耳元で囁いた 「邦彦を立派に育ててくれてありがとう 苦労かけたね 迎えに来たよ」 彼女は無言で首を降りながら 一筋の涙を流す 「ごめんなさい ありがとう」 誰に向けた言葉かわからない彼女の最後の言葉 この後また昏睡状態になり まだ、夜明け前 彼女は、迎えに来たと思われる 父、邦定の残像と共に眠るように逝った
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