魔王が生まれた日

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魔王が生まれた日

魔王と呼ばれだしたのはいつの頃からだっただろうか…… 居城の自室でこの世界に住む生物たちから「魔王」と呼ばれる魔人は一人ベッドで横になりながら考えていた。 魔王は数時間ほど前に勇者を自称する人間を返り討ちにしたばかりだった。 「また全力で戦うことは出来なかったか……」 そう呟くとそっと目を閉じた。 魔王は自分がどこで生まれたか覚えていない。 一番古い記憶はまだ自分が子供でありながら死屍累々の戦場の中ただ一人、たたずんでいる光景…… 彼の幼少期は後に【赤い百年】と呼ばれる、この世界に生きる全種族が世界の覇権をかけて戦いに明け暮れていた時代だった。 そんな凄惨な時代の中生まれた一人の魔人は同じ魔人族と過ごすこともなく、一人戦場に訪れては立ち向かってくるものを全て返り討ちにし、いつしか彼は【戦場に現れる災厄】と呼ばれ始めた。 彼は自分が何者か知りたかった。 戦うことしか知らなかった。 そして彼が現れ始めてから戦場の様相は一変する。 ザスティが戦場に姿を見せると、それまで争っていた者同士が協力し彼に挑むようになっていたのである。 しかし魔人は倒せなかった…… いつしかザスティを崇め、信奉するものと彼を全種族共通の敵として認識するものに別れ始めたのである。 そして【赤の百年】最後の日…… ザスティを信奉する者たちと敵と認識した種族を超えた連合軍の全面対決が行われた。 ザスティは生まれて初めて全力を解禁した。 彼は今まで一度も全力を出して戦ったことがなかった。いや、全力を出す前に戦いが終わってしまっていたという方が正しい。 しかし今、この世界が始まって以来、最大の戦いが起きた。 彼は戦った。戦いの最中、彼は涙した。 「こんなに嬉しいことはない。しかし今後、私が全力で戦えることはないだろう。全力で楽しもう。」 三日三晩に渡る全面戦争は戦いの舞台となった地域の地図を大幅に書き直さなくてはいけなくなるほどの大規模なものとなった。 ドラゴンを始めとする幻獣種が空を舞い、エルフや魔人達は互いに魔法をぶつけ合い、ドワーフや人間種は血で血を洗う肉弾戦を繰り広げていた。 ザスティにとって最初で最後の祭りは彼が最後に放った大地を穿つ一撃により終わりを告げた。 100万以上が関わった戦いの末、最後に立っていたのはザスティと彼の供回り数十人程度であった。 彼は満足感と一抹の虚無感の中それ以上何もすることなく、自らの居城へと帰った。 そして戦争どころではなくなった各種族は互いに条約や同盟を結び戦争はやむなく集結したのである。 そして彼はこう呼ばれるようになった。 戦争を終わらせた魔王と。
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