―― 第二章 ――

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 どことなく気まずい思いを抱きながら週末を過ごした昼斗は、翌週も昴と共に、昴の運転する車で基地へと向かい、見事に止んだ陰口や嫌がらせについて考えていた。階級も高く地位もある昴が直接監視をしているからなのか、その昴が、目の前で昼斗に何かあった際に怖い顔をして笑うからなのか、基地の人々は、最近昼斗に関して、いない存在(もの)のように扱う。  昼食はいつも食堂で取るのだが、ここのところはざるそば以外を頼んでも安全だ。そんな事を考えながら、昼斗はかつ丼を見る。対面する席で、昴はパスタを食べている。  割りばしを手にしながら、それとなく昼斗は昴の様子を窺った。  正直、距離感を掴みかねていた。  嘗て、義弟になるはずだった、二十三歳の情報将校は、非常に端正な顔をした年下の青年であり、物腰は穏やかで、いつも微笑を湛えているが――既に二週間ほど共に暮らすようになり、昼斗も気が付いた事がある。  昴の目が笑っていない場合や、ふとした時に、非常に冷酷な顔をしているのを、何度か目にした。昼斗は気づかない振りをして接しているが、そういった昴の表情を目にした際、強く感じる事がある。やはり、恨まれているのだろうと。直感的に、好かれていないように思えていた。  だが、だからこそ分からない事も多い。  この日もそろって帰宅したのだが、リビングのソファに座っていると、後ろから両腕を回して、抱きしめるようにされた。 「どうかした? 今日の昼斗は、一日、いつもより難しい顔をしていたけど」 「別に……」 「ふぅん?」  気遣うような台詞をはいてから、昴は掠める取るように昼斗の唇を奪った。  一瞬の事だったため、昼斗は反応が遅れる。  このように、キスをされる事も増えてきた。また、平日であっても、たとえば夜中に目を覚ました時になど、抱きしめて眠られている頻度も増加し、昼斗は困惑しっぱなしだ。  少なくとも、自分と目が合っている時の昴は、いつもニコニコと笑っている。  逆にそれは、まだ上辺しか見せられていないという事ではないのかと、昼斗は考えている。実際、監視者とパイロットだ。義理の兄弟といった家族になる未来は、来なかったのだから、いくら〝義兄〟と呼ばれようとも、自分達は他人である。内面を教えてもらう日など、来ないのかもしれない。そうは思いつつも、昴と過ごしていると、ぬるま湯の中にいるように穏やかで、季節はどんどん冬に近づき寒くなっていくというのに、ここのところ昼斗の心は、温かくなりつつある。だからこそ、なおさら距離感が分からない。 「夕食にしようか」  昴は腕を離してから、キッチンへと消えた。それを見送ってから、ソファに深々と背を預けて、深々と昼斗は息を吐いたのだった。
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