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訓練が終わり、車に乗り込んだのだが、帰路の最中、珍しく昴が無言だった。その表情こそいつも通り口元には笑顔が浮かんでいたけれど、昼斗は義弟の瞳が冷ややかな色を宿している気がして、自分は何かしただろうかと困惑していた。
帰宅し、遠隔操作で調整してあった空調が、暖かい室温を保っていたリビングへと入り、昼斗はマフラーを解いてから、コートと手袋を外す。この手袋は、先日遊園地に行った帰りに、昴が買ってくれたものだった。
「すぐに夕食を作るね」
昴はいつもと同じ声音でそう告げて、キッチンへと消えた。だが、不機嫌そうなのは明らかだったから、昼斗はソファに座りつつ、溜息を押し殺す。
観覧車に乗ったあの日から、昼斗の中で昴は特別だ。怒らせたのならば謝りたかったし、嫌われたくない。だが、心当たりはない。今となっては、昴も己の事を、本当に好きでいてくれるのだろうと、昼斗は考えていた。当初は信じられなかった愛情だが、少しずつ、信じてみたいと思うようになった理由は簡単で、自分の方が、好きになってしまったからだった。
今でも思う。愛していた婚約者の弟に恋をする事など、倫理的にどうなのだろうかと。チェストの上にある写真立てを一瞥し、胸が苦しくもなる。膝の間に組んだ両手を置き、昼斗は嘆息した。
「できたよ」
この日のメニューはイタリアンで、二人でボンゴレを食べた。アサリの味が美味だったが、それを昼斗が述べたら、『缶詰そのままの味だけどね?』と、昴の瞳が、また冷たくなった。失言だっただろうかと、昼斗は顔を背けたものである。
そうして入浴後、この日も二人は同じベッドに入った。
隣に並んで寝転がった時、意を決して昼斗は尋ねた。
「な、なぁ、昴」
「なに?」
「俺はその、何かしたか?」
「何か、って?」
「怒ってるみたいだから……」
「……」
すると少しの間沈黙してから、不意に昴が昼斗を後ろから抱きしめた。壁際を向いて横になっていた昼斗は、息を飲む。
「円城少佐と、随分親しいみたいだね」
「保とは付き合いが長いからな。いい奴だと思ってる」
「ふぅん」
「友達だ」
「友達、ねぇ。昼斗がそう思っているとしても、向こうがそう思っているかは分からないけどね」
「……確かに、俺が友達なんて言うのは、おこがましいかもしれないな」
「そう言う意味じゃないよ。あちらは、恋愛対象として見ているかもしれないって話」
「まさか」
考えすぎだと昼斗が言おうとした時、昴が昼斗のTシャツの下に手を差し込んだ。もう一方の手は、下衣の中に忍び込み、ゆっくりと陰茎を撫でる。昼斗の体がピクンと跳ねた。
「俺は、義兄さんが他の人間と仲良くするの、嫌だな」
「……っ、んン」
「俺だけを見てよ」
「ぁ……」
その後すぐ、昼斗は服を開けられた。そして腕を引かれて抱き起された。そのまま正面から抱きすくめられる。昼斗の肩に顎を載せた昴は、両腕に力をこめると囁いた。
「早く俺の事、好きになって」
「昴……ンぅ」
とっくに好きになっていると昼斗は言おうとしたけれど、直後キスをされたから、それは叶わなかった。こうして夜が始まった。
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