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―― 第六章 ――
「……斗。昼斗」
「……」
「昼斗!」
「あ……朝か……」
鳴り響いているアラームの音。上半身を起こそうとした昼斗は、それが叶わない事に気が付いた。目の前には、覗き込んでいる昴の顔がある。大きなソファと厚手の毛布が昨夜からの自分のベッドに変わったのだったなと思いだしながら、昼斗は緩慢に瞬きをした。全身が重い。
「そうだ、朝食を……」
今日から作るのだったなと思い出しながら昼斗が呟くと、昴が目を眇めた。
「起き上がれそうなの?」
「え?」
「体温計がずっと鳴ってるけど」
その言葉に、目覚まし時計の音ではないのかと考えながら、昼斗は上半身を起こした。するとチェストに歩み寄った昴が、室温管理システムのモニターを見た。気温や湿度、外気なども管理するが、その最先端の端末は、マンション内部の人間の体温や脈拍の測定もしている。昴が操作すると、音が停止した。
「39℃と出ているけど」
「……?」
「だから、熱だよ。この暖かい室内で、ソファに移動したからと言って、風邪をひくとは思わなかったんだけど。軟弱だね」
「風邪?」
「――粕谷大尉は高熱だ。他の症状は?」
「別に。確かに少し怠いけどな、風邪という感じはしない」
「ふぅん? 着替えられそう?」
「ああ。それよりも朝食を……」
「そんな場合じゃないよね?」
片目だけを細くした昴の表情は、非常に険しい。おずおずと上半身を起こしながら、昼斗は戸惑った。その前に、昴が洋服を持ってきて、押し付けた。片手で受け取りながら、昼斗は細く長く吐息する。もう何年も、風邪など引いた事が無いし、熱を出した記憶もなかったから、熱があると言われても実感がわかない。
「行くよ」
その後不機嫌そうな顔の昴に促されて、着替えた昼斗は家を出た。
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