―― 第六章 ――

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 ――それだけの事を、自分はしてきたのだから。  昼斗は悔恨に苛まれながら目を開けた。もう見慣れた天井は、昴と暮らすマンションのリビングのものだった。ソファに横になっていると気づきつつ、上半身を起こせば、毛布が床に落ちた。キッチンからは、良い匂いがしたが、食欲なんてない。  現在、昼斗の体の内側にある感情は、名前を付けるならば、〝諦観〟だった。周囲は誰も悪くない。悪いのは、己だ。 「目が覚めたの?」  そこへ昴が顔を出した。黒いエプロンを解きながら、昴があからさまに溜息をついた。 「急に倒れたから、驚いたよ」 「……悪かったな」  二人の間に生まれた、久しぶりの会話だった。昼斗は、話を出来たのが嬉しくて、小さく口元を綻ばせた。すると昴が奇怪なものを見るような目をする。 「なんで笑ってるの?」 「ん?」 「……別に俺は、粕谷大尉の心配なんて微塵もしてないからね?」 「ああ、分かってる」 「……そう」  昴は顎で頷いてから、踵を返した。この日の夜は、煮込みうどんだった。  現在、料理は昴の仕事に戻っている。  結局のところ、変化はと言えば、昴の態度と会話の頻度を除けば、就寝場所がソファになった事くらいだった。だから昼斗は、昴を見る度に考える。〝優しいな〟と。昼斗から見れば、昴は優しいままだった。  翌朝は、七時半に目を覚ます。結局料理をしないから、昼斗の起床時刻は元に戻った。ただ、昴は起こしてくれなくなったから、アラームの音で瞼を開けている。  この朝、食卓へと向かうと、美味しそうな見た目の和食があって、その隣に、昨日までは無かったトートバッグがあった。なんだろうかと視線を向けた昼斗の前で、昴がその隣に、水筒型の保温器を置く。 「こっちはクラムチャウダーだから、飲み物は、自動販売機で自分で買って」 「クラムチャウダー?」 「――お弁当だよ」  昴はそう述べると、対面する席に座り、ほうれん草の胡麻和えに箸を伸ばしたのだった。
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