―― 第六章 ――

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 それはある種の過集中という状態なのだろう。戦闘中、昼斗は痛みを感じないだけでなく、恐怖も感じず、ただ無心に武器を揮う。  だからいつも、己がどのように帰投して、どのように病室へと運ばれたのかを、ここ数年は覚えていない事がある。今回もつい先ほど飛来した最後の一体を討伐したと感じていたのだが、次に目を覚ますと現在で、病室の天井を見上げていた。  全身が重く、左手を見れば四つ足の点滴器具が見える。それぞれから半透明のチューブが伸びていて、その向こうには計器があった。 「勝った、のか……」  上半身を起こしてスタッフコールを押しながら、昼斗は呟いた。  直後訪れた医師の相良と、数名の看護師に身体状況の説明を受けつつ、昼斗は明確に今回の勝利についても教わった。昼斗はそれに喜んだが、相良の眼差しは険しい。 「平時であれば、暫くは絶対に安静が必要ですからね」  相良の説明によると、全身のいたるところの骨に罅が入っているそうで、特に肋骨は僅かに内臓を掠めた状態にあったらしい。言われてみればじくじくと全身が痛む。食い破られた左足首は大きく肉が抉れていたそうで、搬送された段階では骨が露出していたという話だった。最先端の医療技術でなんとか治療がなされたけれど、基地以外の病院での通常の医療であれば、助かったかどうかも分からないというのが、相良の診断だった。頷きながら昼斗は、頭部に巻かれている包帯に触れる。首には大きなガーゼが貼られている。 「この集中治療室からは、特別な要請でもなければ一冬は出られないと思って下さい」  深々と溜息をついた相良を一瞥し、昼斗は小さく頷いた。  医師に反抗的な態度を取る事はない。だが、現在は〝平時〟ではないし、〝特別な要請〟は、いつだってあり得る。パイロットがいない現在、生きていれば搭乗する事になる場面は多い。  人型戦略機の第一世代機は、脳による思考と視線の動きで機体の操作が可能であり、動力源の球体には身体の一部が接触していれば作動する。  一冬の間、Hoopが飛来しない事は、考えられない。それは、昼斗だけでなくその場にいた医療スタッフの誰にだって分かってはいた。  こうして入院生活が始まった。  検温と診察の他には、特に誰が見舞いに訪れるでもなかった。  一日の大半は、横になって過ごす。そのまま五日が経過した。まだまだ怪我は癒えない。
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