63人が本棚に入れています
本棚に追加
震えながらそう念じていると、蟻がこちらに気づく直前、昼斗の周囲には機械の壁が出来た。頭部が無事に元の位置に戻ったようだった。それまで無意識に止めていた呼吸をした瞬間、ぶわりと冷や汗が吹き出してくる。それから顔を上げると、正面がガラス張りのモニターのように変化していた。外界が目視できる。
ローテーブルの前に、巨大な蟻がいる。
膝を抱えて座席についた昼斗は、暫くの間呆然と、画面越しに蟻を見ていた。
軽トラックと同じくらいのサイズだ。
世界が広いとはいえ、あのように巨大な蟻がいるとは思えない。そうである以上、やはりこれは、夢なのだろう。そうだ、夢に違いない。昼斗は内心で、何度もそう念じた。なのに冷や汗は止まらず、何度瞬きをしても目は覚めない。
『生存反応を確認しました――煙道一佐! 聞こえますか?』
それまで雑音交じりだった音声が、そこへ響いてきた。昼斗はハッとして、救助を要請できるのではないかと考える。
「助けて……助けて下さい! 蟻が……」
『煙道一佐?』
「違います、俺は粕谷と言います」
『煙道一佐は、何処へ?』
最初のコメントを投稿しよう!