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「なぁ、昼斗」
搭乗する前の、格納庫に続く廊下にて。
「帰ってきたら、言いたい事があるんだ。話したい事がある」
「保? なんだ?」
「帰ってきたら言うよ。だから、生きて帰ろうな」
そう言って、確かにポンポンと二度、保は昼斗の肩を叩いた。だから昼とも、その言葉を信じていた。しかし、現実はどうだ。
本日は、小雨が降っている。冬の雨は、冷たい。
チャラい見た目に反して、敬虔なキリスト教徒だったらしい保の葬儀が、粛々と行われている。緑の芝が茂る墓地に、柩が埋葬された。人の死とは、あっけない。傍らにいる昴が、白が強いビニール傘を指していて、今、昼斗はその中にいる。不思議と涙が出てこない。
脱出ポッドは作動せず、コクピットの中で首が取れていたのだという話を聞いた。
エンバーミング処置として、縫い合わせられた遺体の首を、白い百合を柩に入れる時に、昼斗は目にした。もう永遠に、保の瞼は開かない。
瀬是機と保機に迫った敵の人型戦略機は、一機は撃沈したが、もう一機は敵の母艦に帰還したのだという。表情筋が動き方を忘れてしまったように変わり、黒い瞳に暗い色を宿し、昼斗は墓石の前に立っている。集まった少数の人々は、嗚咽を零している。
「昼斗、行くよ」
昴がその肩に触れた。泣けない昼斗は、顔を上げて虚ろな眼差しで、ただ頷いて見せた。それから二人で、相合傘の下、駐車場まで歩いていく。昼斗は何も言わない。元々口数が多いわけではない昼斗だが、憔悴しているのは明らかだった。
「ねぇ、昼斗。今日は、外食しようか?」
「……ああ」
「何が食べたい?」
「……そうだな。焼き鳥」
「焼き鳥?」
「保は、豚バラが好きだって、前に言ってた」
「それは鳥じゃないよね」
昴は笑って見せたし、昼斗もまた唇には弧を張り付けていた。
葬儀の帰り道、しとしとと雨が振る白い空の下、二人は車まで歩く。
円城保少佐の葬儀は、このようにして終わりを告げた。
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