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離婚届
俺は、机の上の離婚届を見つめる。
「離婚したいって事?」
「はい」
10年間一緒に居た、妻は、その紙切れを俺の前に差し出した。
「どうして?」
「好きな人が出来ました。」
「だから、パートなんてしないでくれとあんなにもお願いしたんだ。」
俺は、頭を抱える。
子供が出来なくても、幸せだと思ってた。
「ごめんなさい。由紀斗は、何も悪くないから…。悪いのは、全部私だから…。」
「ごめん。明日から出張だから…。帰ってきてから、でもいいかな?」
「うん。時間がある時で構わないから」
「わかった」
俺は、寝室に横になった。
梨寿が、パートを始めたのは、一年前だった。
子作りを頑張っていたけれど、うまくいかず自暴自棄になった。
病院に行くも、出張の多い俺の仕事ではタイミングがとるのも難しいとお医者さんに言われた。
梨寿の体は、排卵しにくいらしく、俺も元気じゃないって話だったっけ?
後から、結婚したやつがどんどん子供が産まれていって…
いつの間にか、梨寿と俺は友人達とも疎遠になっていった。
二人でいるのが、当たり前だった。
なのに、離婚なんて…。
どういう意味で言ってるんだよ。
気づくと寝ていた。
「おはよう」
「おはよう」
梨寿は、変わらなかった。
「新幹線でお弁当何食べるの?」
朝御飯をダイニングに持ってきながら話す。
「何にしようかな?」
味噌汁、卵焼き、鮭、ご飯、ほうれん草のごま和え、やっぱり美味しいな…。
「昨日の話だけど」
「帰ってきてからでしょ?」
「あ、うん」
俺は、朝御飯を食べ終わった。
「じゃあ、行くね」
「いってらっしゃい、気をつけて」
俺は、家をでた。
三泊四日、梨寿は浮気相手に会うんだよな。
スーツケースを転がす、直行だ。
「おはようございます。大宮先輩」
「おはよう、市木」
今日の出張のパートナーは、市木千尋だった。
お弁当を買って、新幹線に乗る。
市木は、二つ下の後輩だ。
「また、同級生が子供出来て、sns見て、昨日苛立っちゃいましたよ。」
「市木でもイライラするんだな?」
「しますよ。独身貴族ですから」
そうだった、市木は独身だ。
「大宮先輩は、結婚して10年でしたっけ?」
「ああ」
「結婚、楽しいですか?」
「子なしは、無能らしい」
「先輩?誰が、そんな事言ったんですか?」
「ごめん。市木は、若い子を掴まえれば子供が出来るだろ?俺は、無理だな。」
「奥さんが、若くないからですか?」
「ああ、同い年の40歳だ。」
「まだ、いけますよ。全然」
「いや、もう無理だ」
「何故ですか?」
「さあな」
俺は、駅弁を開ける。
「子供がいない人生は、無意味なのでしょうか?」
「さあ、いないからわからない」
俺は、駅弁を食べる。
「どうして、みんな子供が出来ると子供の話ばかりになるのでしょうか?何も楽しくないですよ。俺は…。」
市木の言葉に、泣きそうになった。
正直、誰に子供が出来ようが俺は何も嬉しくなかった。
「お祝い贈るけど、祝えてないよ。私」
そう言った梨寿の気持ちは、痛い程わかっていた。
何も嬉しくない。
何も………。
「先輩、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。」
「従兄弟にガキが産まれて、また諭吉が飛んで行ったんですよ。何もかわいくねー。って、俺冷たいですか?」
「わかるよ、市木」
俺は、お茶でご飯を流し込んだ。
「まあ、今日は向こうに行くだけですから、気楽にしましょうね」
「そうだな」
弟が、まだ結婚していなくてよかった。
していて、子供がいたら、狂っていたかもな……俺。
「つきましたね」
ゴミをまとめて、市木と一緒に、新幹線を降りた。
あんまり話した事なかったけど、市木とは話が会うのかもしれないな。
スーツケースを転がしながら、ホテルに向かった。
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