友達よりも深い

6/6
前へ
/6ページ
次へ
「恨まれてると思ったら、怖かったんだ。だから身分を偽った」 「別に恨んでないよ。知らなかったんでしょ? どちらに引き取られるとか、離婚のこととか」 「まぁな。俺は祖母の家に行くからって、急に言われて……荷物もそのままにあの家を出たからな。まさか帰れなくなるなんて、思ってもみなかった」  やっぱりそうだったのかと、僕は深く安堵した。  兄が裏切ったのではないと、分かっただけで僕の人生の枷が一つ外れたように軽くなる。 「だけど会えて良かった。一生会えなかったかもしれないからな」  流れるように進む群衆の中から、二十年以上の間生き別れた相手を探すのは、奇跡に等しいと思っているのだろう。だけど僕は、兄とは正反対の考えを持っていた。 「いつかは、会ってたと思うよ」  僕は前を向いたまま、隣から向けられる兄の視線を感じていた。 「だって、地元の友達以上に、兄弟の絆って深いと思わない?」  小学校どころか、中学、高校の友達ですら、もしかしたら気付かないかもしれない。だけど、僕たちの兄弟という絆はこうして今尚、繋がっていたのだ。 「……そうだな」  兄がぽつりと呟く。 「母さんは元気か?」  唐突な問いだったけれど、きっと一番聞きたかったことだと僕には分かる。 「元気だよ」 「そうか」  そう返す兄は、どこかぎこちない。  それでも『地元の友達』から『兄弟』に戻ったのは、間違いなかった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加