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「恨まれてると思ったら、怖かったんだ。だから身分を偽った」
「別に恨んでないよ。知らなかったんでしょ? どちらに引き取られるとか、離婚のこととか」
「まぁな。俺は祖母の家に行くからって、急に言われて……荷物もそのままにあの家を出たからな。まさか帰れなくなるなんて、思ってもみなかった」
やっぱりそうだったのかと、僕は深く安堵した。
兄が裏切ったのではないと、分かっただけで僕の人生の枷が一つ外れたように軽くなる。
「だけど会えて良かった。一生会えなかったかもしれないからな」
流れるように進む群衆の中から、二十年以上の間生き別れた相手を探すのは、奇跡に等しいと思っているのだろう。だけど僕は、兄とは正反対の考えを持っていた。
「いつかは、会ってたと思うよ」
僕は前を向いたまま、隣から向けられる兄の視線を感じていた。
「だって、地元の友達以上に、兄弟の絆って深いと思わない?」
小学校どころか、中学、高校の友達ですら、もしかしたら気付かないかもしれない。だけど、僕たちの兄弟という絆はこうして今尚、繋がっていたのだ。
「……そうだな」
兄がぽつりと呟く。
「母さんは元気か?」
唐突な問いだったけれど、きっと一番聞きたかったことだと僕には分かる。
「元気だよ」
「そうか」
そう返す兄は、どこかぎこちない。
それでも『地元の友達』から『兄弟』に戻ったのは、間違いなかった。
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