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「仕事は上手くいっているのか? 何か困っていることはないか?」
「仕事は忙しくて大変だけど、やりがいはあるよ。給料は安いけど」
「ちゃんと、飯は食えてるのか?」
「まるで親みたいなことを聞くね」
僕は苦笑しながら、ジョッキに口をつける。彼の不安を滲ませた瞳が、今度は苦々しく伏せられる。
「そっちは、何の仕事してるの?」
「俺か? 俺は銀行で働いている」
「凄いね。もしかして、あそこの銀行とか?」
僕は近くにあるメガバンクの名前を口にする。すると彼は歯切れ悪く「まぁな」と、ジョッキを手にした。
あまり触れられたくはないのだろうかと察して、僕は追加のビールとつまみを頼んだ。
「都内に住んでいるのか?」
「うん。そうだけど」
「結婚は?」
「してない。一人で暮らしてる。そっちは?」
彼は首を横に振ってから「俺も結婚はしてない」と返した。
「高収入で顔も悪くないのに、独身だなんて意外だね」
僕の目から見ても、彼は女性に好かれる要素を多く持っているように思えた。着ているスーツも様になっているし、別段性格も悪そうに感じられないからだ。あまり積極的じゃない雰囲気から、もしかしたら奥手なのかもと僕は勝手な憶測をしていた。
「結婚したいと思えないんだ」
僕は驚いて彼の顔を凝視する。目元を伏せていた彼の視線が、僕に向けられる。その目はそっちはどうなんだ? と問うようだった。
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