友達よりも深い

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 彼の真意は分からない。今更、兄弟としてやり直すのが難しいと思ったのか、それとも僕が彼の声に気付いてしまったから、誤魔化すために一時の友達を装ったのか。  僕はどうしたら良いのか、分からなくなっていた。今にも溶け込みそうな兄の背を前にもどかしさと諦めが、グチャグチャに胸を渦巻いていた。  ふと、兄が足を止めて振り返った。驚きに見開かれた目に複雑な色が混じり、僕はいつの間にか駆けだしていた。  あのとき、忽然と姿を消した兄に対する寂寥感を思いだし、僕の背を強く押したのだ。 「兄さんっ」  僕がそう呼びかけると、兄は大きく目を見開いた。通行人が迷惑そうな目で、立ち尽くす兄を横目に通り過ぎていく。 「友達じゃなくて、兄弟でありたいんだ」  僕は兄の前に立つと、呆然と立ちつくす兄に言い放つ。 「……気付いてたのか」  呆気に取られていた兄は、それから諦めたように大きく息を吐いた。 「違ったらどうするか、という不安よりも先に気付いたら名前を呼んでいた。まさか本人だったとはな」  それから兄は人波を避けようとして、道の端に僕を誘導した。ポスターの貼られた壁に背を向けて並ぶ。  まるで魚の群れを見るような目で、行き交う人たちを二人で眺めた。 「なんで、嘘ついたの? 初めから兄だって、言えば良かったのに」 「俺の事を忘れていると思ったんだ。それならそれで、忘れたままの方が良いんじゃないのかって。だけど、お前の様子も気になってたからつい――いや、違うな」  兄が額に手をやり、目を閉じる。一度首を左右に振ると、小さく笑う。
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